体感する2021.12.24
text: uchu-henshubu
宇宙ビジネスの拠点として注目される街・日本橋で開催された「宇宙の仕事」をテーマとしたイベント〈HELLO SPACE WORK! NIHONBASHI〉。イベント期間中にはJAXA宇宙飛行士候補生募集をはじめ、ファッション、クリエイティブ、法律、女性……などなど、あまり知られていない多様な宇宙の仕事・働き方に注目した9つのトークセッションを開催。
本記事では、8つ目のセッション「宇宙×法律 | ルールがない宇宙でのルールメイキング」をレポートします。
私たちの社会生活を守る「法律」。ルールがあるからこそ私たちは日々を快適に過ごせているけれど、「宇宙」のルールはどうなっているのだろう? 「宇宙法」に詳しい三宅・今井・池田法律事務所の岩下明弘弁護士、一般社団法人日本スペースロー研究会 理事の星諒佑弁護士と、今まさに法を学んでいる現役京大生YouTuberわっきゃいさんの3名による、「宇宙×法」のトークセッションに参加した。
こころに残ったことば
「ルールを作るにはそれなりの理由と背景事情が必要。それが抽象的なままルールを作ってしまうと、ルールメーカーの自己満足になりかねない」(星諒佑)
「歴史を見れば、南極開拓時や大航海時代にも、違う文明と出会った際には同じように行き当たりばったりで土地の所有権を決めたり、通貨のバランスを決めたりしてきたので、その延長線上にあるだけなのかなと思う。」(日野湧也)
「契約書を作るのが弁護士の仕事で、それはまさにクリエイティブな仕事なのだと思います。」(岩下明弘)
トークは星弁護士による宇宙法の説明から始まった。宇宙法は大きく分けて、国家間のルールを決める「国際法」と、各国のルールを決める「国内法」の二つから成っている。法的拘束力のあるルールを作るには84カ国が参加するCOPOUS(国連宇宙空間平和利用委員会)と呼ばれる政府間機関の同意が必要だが、そこで総意を得るのは難しい。そこで法的拘束力のない「ソフトロー(ガイドライン)」が多く設定されているそう。つまりは法的な制約は少なく、ちゃんと契約書で縛っておかなければならない。宇宙×クリエイティブのセッションでも宇宙はフロンティアと言う話があがっていたけれど、各国・各事業者の責任に頼っている部分が大きいのが宇宙法の現状だ。それでは「ルールが曖昧だと、国家間の対立の原因になってしまうのでは?」という視聴者からの質問に、星弁護士は「ルールを作るにはそれなりの理由と背景事情が必要。それが抽象的なままルールを作ってしまうと、ルールメーカーの自己満足になりかねない」と回答。実際に起こった事例に沿って、体験した人の意見を参考にしながらベストな解を導き出していくことで、ルールにも柔軟性とリアリティが生まれ、今後の事業展開のヒントにもなる。宇宙でのルールメイキングは宇宙業界の発展にも繋がっているのだと感じました。
その後はわっきゃいさんからの質問コーナーに。「地球外生命体に地球の法律は適用されるのか?」「宇宙で生まれた子どもは何人(なにじん)?」と言った疑問に対する星弁護士、岩下弁護士、わっきゃいさんのリアルなフォーマットに基づくディスカッションが面白い。例えば、地球上ではペットに加害した場合は器物損害になりますが、それでは地球外生命体も“モノ”と捉えるのか? それとも“ヒト”と捉えるのか? “宇宙人”の定義は? もしかしたら人の定義から考える必要があるかもしれない、など。宇宙空間では、事例がないことには明確なルールもありません。だからこそ、宇宙や法の専門的な知識を持たない私でも一緒に想像をしながらトークを聞くことができました。“何か起きてから考える”ことの多い宇宙法に対してわっきゃいさんは、「歴史を見れば、南極開拓時や大航海時代にも、違う文明と出会った際には同じように行き当たりばったりで土地の所有権を決めたり、通貨のバランスを決めたりしてきたので、その延長線上にあるだけなのかなと思う」と話します。私たちは今まさに、宇宙という舞台で新時代を築こうとしている最中にいるのかもしれません。最後に、これからどんな仲間が必要か?と言う質問が。岩下弁護士の「何かをやろう(事業を起こそう)というときに、必ず入ってくる契約を結ぶというステップ。そこで使う契約書を作るのが我々法律家の仕事で、それはまさにクリエイティブな仕事なのだと思います。柔軟な発想を持って、既存のシステムや仕組みを応用して、参考にして作っていく。そう言う仕事を私も勉強していきたいと思っているし、皆さんにも参加してもらいたいと考えています」という言葉の通り、固いイメージのある法の世界にも、想像力とクリエイティビティが大きく関わっているということに気づかされた本セッション。一見、ありえないと思うような課題とその解決策を考えることは、楽しみながら宇宙の未来を想像する一歩に繋がるのではないでしょうか。「宇宙」と「法律」、二つの領域が交わるとき、そこには新たな創造力が生まれ、お互いの領域を活性化させていくようになるのだと思います。
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2013年弁護士登録。会社法務、特に事業再生案件を得意とする法律事務所に所属し、ロケット開発を行う法人の法律顧問業務等に従事。本年度、東京弁護士会主催のシンポジウム「宇宙旅行の実現に向けた最新の動向」で、コーディメーターを務める。また、JAXAと慶應義塾大学宇宙法センターが共同で行っている研究会にメンバーとして参加。著書に、「宇宙ビジネス事業者の倒産をめぐる諸問題」(共著/商事法務、2020年)。
コント動画を中心に投稿する現役京大生YouTuber。出身はアメリカのカリフォルニア州で、フルコンタクト空手では全米オープン優勝の実績も持つ。芸人としての活動の傍ら、教育アプリringの代表も務めており、多方面で活躍する。
エンタメ芸能、不動産テック、宇宙領域のスタートアップおける、新規事業、資金調達、コーポレート法務等に従事。宇宙領域においては、探査、通信、ISSの商業利用等、幅広い分野を取り扱うと共に、エンタメコンテンツプロデュースも手掛ける。複数の所属団体において、他業種と宇宙事業関係者の連携や宇宙法の研究活動に従事。
国際基督教大学卒。日本アイ・ビー・エムでITエンジニアとしてキャリアをスタート。その後、アドビシステムズでフィールドマーケティングマネージャー、バスキュールでプロデューサーを経て2014年に株式会社HEART CATCH設立。ビジネス・クリエイティブ・テクノロジーをつなぐ“分野を越境するプロデューサー”として自社、スタートアップ、企業、官公庁プロジェクトを生み出している。2020年には米国ロサンゼルスにHEART CATCH LAを設立し、米国でのプロジェクトも進めている。