体感する2021.12.27
text: Ryota Mukai
宇宙ビジネスの拠点として注目される街・日本橋で開催された「宇宙の仕事」をテーマとしたイベント〈HELLO SPACE WORK! NIHONBASHI〉。イベント期間中にはJAXA宇宙飛行士候補生募集をはじめ、ファッション、クリエイティブ、法律、女性……などなど、あまり知られていない多様な宇宙の仕事・働き方に注目した9つのトークセッションを開催。
本記事では、5つ目のセッション「宇宙×女性 | 宇宙の未来を切り拓くヒロインたち」をレポートします。
ジェンダーや人種など、多様性を巡る議論の盛り上がりは世界的なものになっている。日本も例外ではなく、宇宙業界とて変わらない。この世界で活躍する4人をトークゲストに迎えた本セッションでは、宇宙業界におけるダイバーシティという大きなテーマに始まり、出産をはじめとする女性ならではの出来事、果ては業界の多様性を高めるためにこれからすべきことまで議題に上がった。彼女たちが今考えていることとは?
こころに残ったことば
「男女というのは多様性のなかのひとつの軸であって、様々な軸が大切だということが認識されてきている」(山崎直子さん)
「例えばコミュニケーションを取るのが難しかったりするけれど、それは男女の問題ではなくて、いろんな人がいるチームとして仕事をすれば当たり前のこと」(伊藤美樹さん)
「スマートフォンを持っている時点で宇宙と繋がっているじゃないですか。衛生データを活用されているわけですよね、みなさん」(流郷綾乃さん)
「宇宙はみんなに開けた場なんです」(生本めいさん)
トークの冒頭はずばり「宇宙業界におけるダイバーシティについて」。なかなか大きなテーマだけど、宇宙飛行士・山崎直子さんの解説がまず面白い。宇宙飛行士に関して言えば、初めはアメリカと旧ソ連の軍人でかつ白人男性しかいなかった。その裾野が広がるなかで、アジア人初の女性宇宙飛行士の向井千秋さん、日本人で二人目の女性宇宙飛行士・山崎さんがいる。さらに向井さんが選抜されたのは男女雇用機会均等法が成立した1985年、山崎さんの選抜は男女共同参画社会基本法が施行した1999年、とぴったり日本社会の動向と重なっていることを初めて知った。宇宙は、まさしく時代の最先端なのだ。そして現在、JAXAによる13年振りの宇宙飛行士募集では、ジェンダーはもちろん文理も問われないし、ヨーロッパでは身体に障がいを持つ人を対象に「パラアストロノート」を選抜中だという。だからこそ「男女というのは多様性のなかのひとつの軸であって、様々な軸が大切だということが認識されてきている」と言われるのだ。
宇宙飛行士がこのような状況にある一方で、実は宇宙業界全体に目を向けると女性は全体の20%ほどなのだという。同性が少ないのは心細いかも、なんて思ったけれど、当のみなさんは困ることはないと断言する。長年エンジニアとして第一線で活躍してきた伊藤美樹さんは「例えばコミュニケーションを取るのが難しかったりするけれど、それは男女の問題ではなくて、いろんな人がいるチームとして仕事をすれば当たり前のこと」と話す。
では、出産など女性ならではの悩みは? というと「宇宙飛行士の訓練中に子どもを生んだときは大変でした」と山崎さん。手探りで進める訓練は自身のみならず周りの負担も大きい。だからこそ、制度が整うことは必要だけど「きちんと運用して、社会的にも認められて、とステップを超えることが大切」と、ずっと先まで見通していた。
このように宇宙業界内で多様性は確かに獲得されてきた。ただ、これだけでは足りないのも事実。なぜなら宇宙に携わる人々には、いわゆるSTEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)分野だけでなく、国際協力や広報をはじめとする他分野の力こそ必要だから。そんな他業種の参入のハードルを下げるには? 広報コンサルティング業から出発して宇宙業界にやってきた流郷綾乃さんは「スマートフォンを持っている時点で宇宙と繋がっているじゃないですか。衛生データを活用されているわけですよね、みなさん」と話す。なるほど、確かにグッと宇宙が近く感じる。JAXAを経て宇宙ベンチャー企業に勤める生本めいさんは、元は外交官志望。この業界に入ったきっかけは「触れる地球」というデジタル地球儀との出合いがあったからだとか。「宇宙はみんなに開けた場なんです」と生本さんが話す通り、実は宇宙は身近な存在なのだと気がついた。
1993年岡山県倉敷市生まれ。ロシア留学を経て、大阪大学卒業。外交官を目指していた大学時代、地球観測データで構成されるデジタル地球儀「触れる地球」と出会い、「”宇宙から見た地球”という視点が広まれば、地球はもう少し平和な場所になるのでは」と衝撃を受け、宇宙への道を志す。新卒でJAXAへ入社、有人宇宙活動・ISSを中心とした事業企画や国際調整、国内外契約の経験を経て、2021年1月、宇宙ベンチャー企業アクセルスペースへ入社。
日本大学大学院航空宇宙工学専攻修了後、内閣府最先端研究開発支援プログラム「(通称)ほどよし超小型衛星プロジェクト」にて 2 機の超小型人工衛星「ほどよし 3 号機」「ほどよし 4 号機」の熱・構造設計、試験業務に従事。その後、およそ 1 年間、外国人留学生の衛星製造の指導や開発サポート業務を経て、2015 年 4 月アストロスケール日本 R&D に入社、同社代表取 締役社長に就任。エンジニア業務も兼任しながら、デブリ除去衛星実証機、「ELSA-d(エルサ・ ディー)」の開発に取り組んできた。2018 年には、「Forbes Emergent 25」や日経 WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018」に選出、アストロウーマン賞を受賞。 2019 年 2 月、アストロスケールグループ組織編成に伴い、同社ゼネラルマネージャーに就任。
2010年スペースシャトル・ディスカバリー号に搭乗し、国際宇宙ステーション(ISS)組立補給ミッションSTS-131に従事した。2011年に宇宙航空研究開発機構(JAXA)退職後、内閣府宇宙政策委員会委員、一般社団法人 Space Port Japan代表理事、公益財団法人 日本宇宙少年団(YAC)理事長、環境問題解決のための「アースショット賞」評議員などを務める。
1990年生まれ。2児の母。中小企業の広報を経て、フリーランスの広報として独立。スタートアップなどに対して広報・戦略コンサルティングを提供。2017年11月、生物資源ベンチャー「ムスカ」の広報戦略を支援し、18年7月に代表取締役CEOに就任。数々のビジネスコンテストにて最優秀者やSDGs賞を受賞し、経産省J-Startup企業に採択。同社の認知度の向上および、資金調達に貢献し、20年11月に退任。2021年7月DXスタートアップのスパイスファクトリー株式会社、取締役CSO(最高サステナビリティ責任者)就任、株式会社SPACE WALKER 経営企画 サステナブル推進を担当。
宇宙キャスターとして、日本テレビにて打ち上げライブ番組「Crew Dragon 宇宙へ」「はやぶさ2 地球へ 」など多くの宇宙番組を企画し放送。宇宙のライブ映像を使った実況はテレビ史上初の試みであったことから表彰を受ける。また、宇宙を楽しむコミュニティ「そらビ」を発足し、「めざせ!未来の宇宙飛行士講座」を主催。現在は宇宙教育に尽力。宇宙の街 日本橋を子供達が宇宙の最先端を学べる場にしようと活動している。
日本IBMデザイナー。本セッションでは、グラフィックレコーディングでゲストスピーカーの話や会場での質問など可視化するサポートを行う。”テクノロジーとオープンイノベーションで日本発の革新的事業を創出する”IBMのプログラム「IBM BlueHub」として参加。