きく2021.12.29

宇宙名盤 vol.8 クラフトワークのロボット思想。

text: Katsumi Watanabe

国内外問わず、宇宙や星をモチーフにした楽曲やアルバムはたくさんある。確かに、まだ見ぬ惑星に想像を膨らませるし、美しい星空はラブソングのテーマにぴったりだ。 しかし、海外の宇宙をテーマにした作品を調べてみると、音楽家のバックグラウンドや社会的、文化的な背景なども色濃く反映されていることがわかった。この連載では、宇宙をテーマにしたアーティストとジャケットを中心に調べてみよう。

今回は『人間解体』からいまだにマン・マシーンをテーマに表現を続けるクラフトワークのロボット思想。そして、それを受け継ぎ、宇宙思想も引用してヒップホップを開花させたアフリカ・バンバータ&ソウルソニック・フォース「プラネット・ロック」について。

坂本慎太郎「あなたもロボットになれる」(2014年)という曲は、小説や映画など、いわゆるサイエンスフィクション(以下、SF)的な視点でロボット、もしくはAIを、ディストピア的な視点で歌った、おそらく日本で最初のポップスだろう。歌詞の内容は、小さなチップを埋め込めば、不安や悩みから解放されるという便利なシステムで、自由な職業に就くことができる。また、当初2割しか賛成していなかった国民たちが、いつの間にか7割が賛成しているという状況までが歌われている。話は少し違うけど、現在SNSを開けば、アルゴリズムによってか、いつの間にか自分の好みの動画、商品を勧めてくる。マーヴィン・ゲイ「What’s Going on」を聴いていたら、次にOfficial 髭男dism「What’s Going on?」が選曲されたり。意外といい曲で、便利なシステムだと関心した。最初は自己の趣味嗜好やパーソナリティを知られることが怖かったけど、今ではそのシステムに慣れ、いつの間にか当たり前になっている。人間としての感情が欠落していないか、今一度確認する必要があるかもしれない。

 

ロボットは人類、または化学的な英知の結晶として語られ、日々進化を続けている。ロボットに関する曲は数多くあるけど、ドイツのクラフトワーク『人間解体』(78年発表、原題『Man Machine』)は、いまだに強い影響力を持った作品だ。全曲がシンセサイザーとリズムボックスで演奏、「Robot」のボーカルではボーコーダーが用いられ、ジャケットではメンバーがロボットになっている。今から43年前に世界中の音楽ファンから未来の音楽として熱狂的に受け入れられた。しかし、音楽的なテクノロージーの進化を体現した作品であると同時に、科学の進化への警鐘となってしまったクラフトワークの『放射能』(75年発表、原題『Radio-Activity』)と同じく、どこか皮肉めいた作品でもある。

 

 

シンセサイザーなど、いわゆる電子楽器導入以前のクラフトワークは、いわゆるクラウトロックとして人気を博していた。しかし、『ヨーロッパ特急』(77年)や『人間解体』は、アフリカンアメリカンたちからも強烈な人気を集めた。73年からNYブロンクスを拠点にDJとして活動していたアフリカ・バンバータは、自身がDJとしてプレイするパーティの間、観客がドラムだけの間奏部分で熱狂することに気付き、2台のターンテーブルと2枚のレコードを使い、ドラムのリズムのみを延々とループさせる、現在でいうブレイクビーツを発明。「オレは世界中のありとあらゆるジャンルのレコードを聴き、ドラムブレイクを探していた。そんなある日、『ヨーロッパ特急』に出会ったんだ。ファンキーなドラムビートに、ボコーダーのロボット声。不気味なシンセサイザーの響き。すべてが完璧だった。正直、このクソみたいなレコード(*スラングです。最大級の褒め言葉!)がドイツのバンドだと知った時は、驚いたね」と振り返る。『ヨーロッパ特急』や『人間解体』が発表された時期は、パーラメントやファンカデリックといったPファンク軍団(リズムこそ生演奏だったが)も、大々的にシンセサイザーを導入し始めた時期。もちろんPファンクに夢中だったバンバータも、クラフトワークのサウンドを取り入れた。1982年にアフリカ・バンバータ&ソウルソニック・フォースとして発表した「プラネット・ロック」は、『ヨーロッパ特急』を大々的にサンプリング。タイトル通りPファンクの宇宙思想やアフロフューチャリズムと、クラフトワークのフューチャーサウンドをリンクさせた、現在でもヒップホップ を語る上では欠かせない代表曲になっている。

 

 

ヒップホップの礎を築いたことでは、バンバータと肩を並べるグランドマスター・フラッシュはクラフトワーク「ヨーロッパ特急」について、興味深い感想を述べている。「オレたちDJが(レコードをミックスや)カットしなくても、『ヨーロッパ特急』は自分で勝手にやってくれるから、この曲をプレイいる間はタバコでも吸って休憩していればいいのさ」。もし、すべての職業や生きる糧が、ロボットに据え変わってしまったら。そんなロボットの進化は、音楽家や作家など、多くの芸術家に大きなインスピレーションを与えてきた。「Planet Rock」が制作された時期は、映画『ブレードランナー』が公開された時期とも重なる。ヒップホップでは少し快楽的に描かれた人間とロボットの関わりは、同じ時期に誕生するデトロイトテクノにおいては、また違ったニュアンスで描かれているのが興味深い。

(次回からいよいよデトロイトテクノ編です)

 

【宇宙的名盤 vol.8】のプレイリスト

 

Reference

▼ 宇宙名盤 vol.8

・『ヒップホップ・エボリューション』(NETFLIX)

・『ブラックマシーンミュージック』野田勉: 著

・『Wax Poetics Japan』No.07 (2009年11月29日発売)

 

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