きく2022.02.04
text: Katsumi Wataneba
国内外問わず、宇宙や星をモチーフにした楽曲やアルバムはたくさんある。確かに、まだ見ぬ惑星に想像を膨らませるし、美しい星空はラブソングのテーマにぴったりだ。 しかし、海外の宇宙をテーマにした作品を調べてみると、音楽家のバックグラウンドや社会的、文化的な背景なども色濃く反映されていることがわかった。この連載では、宇宙をテーマにしたアーティストとジャケットを中心に調べてみよう。
今回は、イギリスのレアグルーヴ/アシッドジャズ・シーンからブレイクしたジャミロクワイの代表作『Space Cowboy』と火星探査計画の、奇跡的な相似点を掘り下げます。
宇宙計画とショウビズ業界。それぞれの歴史を照らし合わせてみると、確実にロケットや人工衛星の打ち上げなどの宇宙計画の発表があった後、呼応するようにして、その計画に関する映画やドラマなどが制作されている。アメリカ航空宇宙局(a.k.a. NASA)を配するアメリカでは、特にそれが顕著だ。宇宙計画自体がエンターテイメントで、作家にとってアイディアの源泉になりやすいのかもしれない。特に宇宙計画と映画の関係が特にわかりやすく、例えば1975年のバイキング計画から、久々に行われた、96年のマーズ・パスファインダーという火星探査の打ち上げ。日本でも大々的に報道され、当時その様子に釘付けになった。(*1)
無酸素状態の火星には、果たして生命体はいるのか。映画『トータル・リコール』(90年)によれば、コロニーの外に出たシュワちゃんが大変な目にあうけど、実際の環境はどうなのか。この時の研究結果で、過去に火星にも水が存在したという事実は、『トータル・リコール』の内容と少しだけかぶっていて、映画のファンとしても驚いたものだった。そして映画『マーズ・アタック』(96年)をはじめ、『ミッション・トゥ・マーズ』や『レッド・プラネット』(ともに2000年)など、火星をテーマにした映画が(いきなり)数多く制作された。
こうした宇宙計画とエンターテイメントの関係性は、映画だけに限らず、音楽界でも多い。マーズ・パスファインダーの計画が発表された後、ジャミロクワイは『Space Cowboy』(94年)をリリースしている。
ジャミロクワイは、80年後半にロンドンを起点にしたアシッドジャズ・ムーブメントから出てきた、ファンク〜ソウルバンド。ジャム(演奏)とネイティヴアメリカンのイコロイ族をかけ合わせた造語をバンド名に、1993年のデビュー作ではオーストラリアの先住民族、アボリジニーの楽器であるディジュリドゥをフィーチャー。常に民族問題や環境問題など、強いメッセージを打ち出していたバンドだった。その流れをくめば、月面のクレーターにジャミロクワイ・キャラクターの描かれた『Space Cowboy』は、いきなり宇宙へ話題が移行したため、異色の作品に聴こえた。
改めてアルバム冒頭「Just Another Story」を聴いてみると、ラテンパーカッションを取り入れたファンキーなリズムセクションと、壮大なシンセサイザーの響き。
これはハービー・ハンコックが70年代にシンセサイザーを取り入れて制作した『Trust』(74年)や『Man-Chold』(75年)など、宇宙イメージの作品から強い影響を受けていることがわかる。中でも『Man-Chold』は、火星探査のバイキング計画と同年の75年にリリースされ、ジャケットに描かれている赤い空はどこか火星を模しているようだ。
JKによる甘いボーカルと、ファンキーなシンセベースの「Space Cowboy」も、よく聴いてみればサウンドプロダクション自体、ハービー・ハンコックから影響を受けていることがわかる。偶然か、火星探査のある度にジャズ/ファンク界から傑作がリリースされている。
ハービー・ハンコックとジャミロクワイの相似関係は偶然かもしれないけど、宇宙計画自体、アーティストたちにとって想像力の源になる、クリエイティヴソースであることは、間違いなさそうだ。
Reference
▼ 宇宙名盤 vol.11
・『Wax Poetics Japan』 No. 1(2008年10月27日発売)
▼ 一覧ページ