特別連載2021.11.13

平野陽三、宇宙へ行く。vol.5 9月16日:NASA 訓練最終日。

photo & text: Yozo Hirano

出発まであと83日。

今日でNASA訓練は最終日。ハリケーンで滞っていた予定の皺寄せもあり、今日はホテルを7時に出発することになった。

 

今日は、キューポラでの撮影シミュレーションや、USOSと地上を結んでの映像コミニュケーションなどをメインに行った。そのあとは、最終日ということもあり、たくさんのキーマンとお会いした。NASAのセンター長、フライトディレクター、宇宙飛行士の訓練長、そして僕たちがISSに滞在するときにお世話になる予定のNASAクルーの4名。

 

とにかくこの宇宙飛行士の方々が素晴らしくて。
「何でも困ったら言ってくれ」「撮影のアシストするよ」「宇宙で会えるのを楽しみにしてるよ」って。

 

知能も身体も精神も鍛え上げられた本物の宇宙飛行士は自信に満ち溢れていて、漂う雰囲気が人間としても別格だった。

 

それなのに、「宇宙に行って成し遂げたい一番の目標はなに?」という彼らからの簡単な問いにすら、僕は自分の言葉でうまく伝えられなかった。

 

昨日に引き続き、自己嫌悪がとめどなく押し寄せてくる。宇宙に行くことの重大さを、今更ようやく理解した。

 

本当に自分が、この人たちがいるISSにお邪魔していいのか。

 

前澤のサポート役として任命されたはずの自分が、前澤の足を引っ張ってないか。

 

宇宙の知識も乏しく英語も満足に話せない自分にサポートできることって何なのか。

 

自分のほかにもっと適正な人がいたんじゃないか。

 

どうしよう、考え出すと止まらなくなった。

 

そんな日に限って、今日は明日からのスケジュールに合わせて、宇宙プロジェクトの残りのスタッフがヒューストンまで集まった。

 

僕はNASA訓練の様子をみんなに報告した。みんなと話してるうちに、自分の今の心境を吐き出したくなってしまって、突然変なスイッチが入ってしまった。

 

みんなの前で、涙が止まらなくなった。

 

出発の日の決意をもう忘れたわけではない。
必ず最後まで遂行する。

 

でも本当に情けない。
今日もまた全然眠れない。

 

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