特別連載2021.12.07

平野陽三、宇宙へ行く。vol.73 12月4日:MOONWATCH。

photo & text Yozo Hirano

出発まであと4日。

今日は朝からエネルギアの幹部がホテルにいらっしゃるということで、僕たちはフライトスーツに着替えてお出迎えをした。彼らは何をしにやって来たかというと、なんと僕たちに出発のお祝い品を贈呈しに来てくださったという。

 

いただいた品物はケースが二つ。開けてみると、どちらもOMEGAの腕時計だった。一本は宇宙服の上からはめる用でベルトが長いバンドになっていて、もう一本は軌道上でつける用にチタンベルトのもの。

 

アポロ11号が月に着陸したときに、ニール・アームストロング船長がOMEGAのSPEED MASTERをはめていたことは有名な話だけど、ロシアでもOMEGAが正装備になっていることは知らなかった。いただいた宇宙服用の時計も、SPEED MASTERのMOONWATCHだった。まさか宇宙でOMEGAをはめることになるとは思ってもみなかった。光栄極まりないけど、有り難く頂戴した。

 

そのあとはSAR(Search And Rescue)の人たちがやってきて、ランディング後のフローについて詳しく説明を受けた。SARによって、ランディング後の飛行士たちは帰還カプセルから引き上げられ、ヘリで空港へ運ばれ、その後スターシティへと移送される。またその名の通り、緊急事態には捜索して救出するレスキュー部隊となる。ちなみにスターシティでのサバイバル訓練は、このSARの先生たちから受けた。

 

打ち上げの時も、万が一ロケットから緊急離脱した場合に備えて、打ち上げ基地から広範囲に渡って、無数のSAR部隊が配置されている。帰還時も緊急事態に備えて、超広範囲に渡ってSARが待機してくれている。

その数、飛行機12機、ヘリコプター16機、船1隻は日本海で待機しているという。万が一ロシア・カザフスタンの圏外に不時着した場合には、世界中の協力国から救助を要請できる体制を取っているという。ほんとに映画のようなスケール感に圧倒された。これこそが宇宙大国ロシアの自信と威厳であり、念には念を10回入れたくらいの万全の体制で、絶対に宇宙関連での犠牲者を出さないという姿勢の表れである。

 

たった3人のために、一体何人のSARが動いてくれているのだろう。緊急事態はまずあり得ないと思っているけど、万が一のことがあっても、この人たちなら何とかしてくれそうだと思えた。今日もまた、感謝しかない。

 

打上げまで、あと4日に迫った。

 

<次の記事>vol.74 12月5日:発射台へ。

 

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