特別連載2021.11.15

平野陽三、宇宙へ行く。vol.13 9月24日:サバイバル訓練本番。

photo & text Yozo Hirano

出発まであと75日。

今日はサバイバル訓練本番。ついに1週間降り続いていた雨がついに止んだ。

 

はじめにドクターから簡単なメディカルチェックを受けたのち、ソユーズに実際に積み込んでいるものと同じウェアに着替えた。真っ青な上下のスウェットに、沼地に入っても大丈夫なように膝まである緑色のゴムブーツを履く。足元だけまるでガンダムのザクみたいになった。控えめに言ってかなりダサイけど、サバイバルにダサイもカッコイイも言ってられない。

 

荷物を担ぎ、ポイントに到着すると、教官やサポートスタッフ、カメラマンたちはいなくなり、インストラクターのジーマ、前澤、僕の3人だけが森の中に残った。スマホも持ち込みを禁止されている。

 

最初にジーマがロシア語で何かをつらつらと言ったけど、何を言っているかさっぱり分からなかった。目を見合わせて、一秒の間を置いてから3人で爆笑した。言葉は通じないけど、とりあえずやるしかない。

 

ジーマと前澤がテントを張り、僕は焚き火係に任命された。焚き火を一日中絶やさないために、たくさんの枝を切ったり拾ったりしてかき集めた。昨日までの雨で木も地面も濡れてしまっていたので、なるべく乾いた木を探し求めて森中を歩き回った。

 

歩き回っているうちに、完全に迷った。ふと気付いたときにはすでに遅し。360度同じ森の景色に、どこから来てどこへ戻ればいいか分からなくなった。振り返っても数歩前の道がどっちだったかすら思い出せない。生粋の方向音痴である僕が、ロシアの森に太刀打ちできるわけがなかった。このまま遭難するんじゃないかと、一瞬恐怖を覚えた。

 

結局はどうにか自力でキャンプに戻ることができたけど、それ以降はきちんと目印を作って歩くようにした。僕が何百本もの薪を集めているうちに、ジーマと前澤によって見事なテントが二張完成していた。昨日のオリエンテーションで作ったものよりも丁寧にしっかりと作られていて、これなら寒さを凌げそうだった。

 

焚き火は最下部に土台を作り、その上に枝の細い順に木を組み上げていく。白樺の皮を剥いで裂いたものを混ぜ込むと、うまく火が回った。湿った薪は火のそばに置いておき乾燥させてから焚べていく。

 

お昼にビスケットやフルーツバーのような宇宙避難食を軽く食べ、焚き火で温めた白湯を飲んだ。1時間おきに「メーデー!メーデー!」とレシーバーで応援要請を続ける。大きな焚き火で煙をふんだんに焚き、レスキューヘリに居場所を知らせる。

 

そうこうしていると、ジーマが急に倒れて、腕が折れたと言い出した。サバイバルバッグの中からガーゼを取り出し、枝で腕を固定して巻きつけた。ジーマを抱えてヘリの到着ポイントまで移動したところで、サバイバル訓練の終了が告げられた。

 

ジーマはインストラクターとしてこの訓練所で働きながら宇宙飛行士を目指しているのだという。同じ言語で会話はできなかったけど、森の中での一日を通して3人の間に絆ができたような?気がする。

 

<次の記事>vol.14 9月25日:久しぶりの休日。

 

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