きく2021.11.21
text: Katsumi Watanabe
国内外問わず、宇宙や星をモチーフにした楽曲やアルバムはたくさんある。確かに、まだ見ぬ惑星に想像を膨らませるし、美しい星空はラブソングのテーマにぴったりだ。 しかし、海外の宇宙をテーマにした作品を調べてみると、音楽家のバックグラウンドや社会背景なども色濃く反映されていることがわかった。この連載では、宇宙をテーマにしたアーティストとジャケットを中心に調べてみよう。
今回は、1940年代から活動する自称・ジャズ界の土星人、サン・ラの『Space Is The Place』とその映画作品、そして70年代のアメリカについて。
2021年1月、1974年の制作から約四半世紀の時を経て、映画『サン・ラーのスペイス・イズ・ザ・プレイス』が公開された。真っ青に晴れ渡る空の元、森の中では鳥たちが戯れ、たわわに実ったフルーツからは、果汁(またはワイン)が湧き出る。そんなパラダイスのような場所から物語は始まる。音楽を燃料に宇宙船で旅を続けるサン・ラの御一行様、詳しい状況設定の説明はないけど、このオープニンで描かれている楽園こそ、サン・ラの故郷、土星ではないだろうか。当時のアメリカの状況は、1973年にはウォーターゲイト事件、翌74年は泥沼化したベトナムの戦地からアメリカ軍が撤退を表明した、かなりタフな状況だった。60年代には平和を志すヒッピーたち、反体制のMC5やストゥージーズらと共鳴していた、自称・土星人のサン・ラは思いっきり嫌味を込めて平和を描いたのだろう。
映画『サン・ラーのスペイス・イズ・ザ・プレイス』の公式サイト
映画ファンからは、びっくりするほど合成丸出しの宇宙船やレーザー光線がレトロフューチャー的、というか、はっきり言ってカルト映画として人気を集めている。しかし、「銃声」と「混乱」から黒人たちを守るために宇宙へ誘うという物語は、一貫して人種問題が主軸になっていて、さまざまな問題を鑑みるべき2021年の今、観るべき作品でもある。また、この映画は、後にファンカデリックなどのPファンク軍団、ホワン・アトキンスやデリック・メイなどのデトロイト・テクノ勢が引き継ぐことになる、アフロフューチャリズムの原点と呼ばれている。
映画には、公開20年後に発表された正式なサウンドトラック『Soundtrack To Space Is The Place』(93年)が存在する。しかし、青空をバックに、頭に土星をかたどった冠を付けたサン・ラの『Space Is The Place』(73年)は、タイトル通り、どう考えても映画のサウンドトラックだ。宇宙船が発着陸する時に鳴らしそうなシグナルで始まり、アヴァンギャルドに展開するタイトル曲。サン・ラが歌う主旋律と、それを遮るように繰り返される「Space Is The Place」という女性コーラスの衝突。
これは同時期に活動した、アフリカンアメリカンのポエトリーリーディング・グループ、ザ・ラスト・ポエッツ『Delights Of The Garden』などでも用いられる、メッセージを強く伝える時に用いられる手法。ブルージーな「Descipline 33」、激突するようなけたたましいフリージャズ「Sea Of Sound」、そしてシグナル音にホーンセクションとコーラスが絡みつく「Rocket Number Nine」。どの曲もロケット打ち上げを彷彿とさせるほど、けたたましくパワフルな演奏だが、2曲目の「Image」で奏でられる美しいピアノの旋律こそ、サン・ラが表現したかったピースフルな宇宙の神秘ではないだろうか。
【宇宙的名盤 vol.2】のプレイリスト
*日本盤CDなどのアーティスト名に”サン・ラ”、または”サン・ラー”という2種類の表記が散見されます。このページでは、作品名に記されたアーティスト名を元に表記しました。
▼この記事のReference
・『Space Is The Place: The Lives And Times Of Sun Ra』
・『ブラック・マシン・ミュージック』野田勉:著