特別連載2021.11.21

平野陽三、宇宙へ行く。vol.32 10月13日:訓練後のサウナにて。

photo & text Yozo Hirano

出発まであと56日。

フィジカルトレーニングは、プールからのサウナで締めるというのが訓練の定番。今日はサウナでたまたま一緒になった一人の宇宙飛行士と話をすることができた。

 

ジムやプールでよく一緒になるその人は、いつも笑顔で僕たちに声を掛けてくれて、とても愛想の良いチャーミングな方。年齢は40〜50代くらいに見える。現役の宇宙飛行士としては唯一のカザフスタン人で、打上げ基地のあるバイコヌールが生まれだという。

 

今までISSに行ったことがあるのか聞くと、まだ行ったことはなく、初フライトに向けて訓練中だという。いつから訓練所にいるのかと聞くと、なんと2003年頃からだという。つまり約18年もの間、初フライトに向けて訓練を続けている。

 

カザフスタン出身ということもあり、国際調整などにも色々なハードルがあるとも話してくれた。厳選なる選考を通過した一握りの人がプロの宇宙飛行士となり、宇宙飛行士となった後でもいつ宇宙に行けるかは分からないという厳しい世界。努力だけでは超えられない領域。宇宙飛行士の山崎直子さんも、宇宙飛行士になってから実際にISSに行ったのは11年後のことだったという。

 

僕がISSに行けることになったのは本当に偶然と奇跡がいくつも重なったようなもので、前澤に付いて夢中で仕事をしていたらこうなったという以外説明ができない。

 

宇宙飛行士の方々の努力に触れ、思い知るとき、自分が本当に行って良いものかと毎回苛まれる。16年間待ち続け、いつ来るか分からない出番に向けて訓練の手を休めないプロフェッショナル。彼が僕のような人間をどう思っているのか気になったが、聞けなかった。

 

サウナから出るとき、彼は笑顔で「ISSもうすぐだね、楽しみだね」と笑顔で言ってくれた。

 

圧倒的な人間力。宇宙飛行士には敵わない。

 

<次の記事>vol.33 10月14日:メディアデー。

 

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