きく2021.11.25

宇宙名盤 vol.3 ファンクで人類を救う。

text: Katsumi Watanabe

国内外問わず、宇宙や星をモチーフにした楽曲やアルバムはたくさんある。確かに、まだ見ぬ惑星に想像を膨らませるし、美しい星空はラブソングのテーマにぴったりだ。 しかし、海外の宇宙をテーマにした作品を調べてみると、音楽家のバックグラウンドや社会背景なども色濃く反映されていることがわかった。この連載では、宇宙をテーマにしたアーティストとジャケットを中心に調べてみよう。

今回は、1970年代に宇宙からマザーシップに乗って飛来し、ファンクで人類を救済したパーラメント/ファンカデリックについて。

白人、黒人、東洋人、そして異星人。1966年に開始されたドラマ『スタートレック』の舞台になる宇宙ステーションでは、さまざまな人種が登場する。今では当たり前の設定だけど、まだ人種差別の激しかったアメリカにおいては、かなりの冒険だった。同シリーズでヒカル・スールー役を演じたジョージ・タケイ氏は、制作時の様子を振り返る。

「(黒人の人種差別に抗議する)公民権運動、ベトナム戦争で世の中が騒然としていましたが、テレビではこうした重要な現実が伝えられていませんでした。テレビは人々を啓蒙する強力な媒体です。そこで(プロデューサーのジーン・)ロッデンベリーはエンタープライズを地球に見立てて、23世紀にはヨーロッパ、アジア、中南米などから集まった多様性豊かな乗組員が協力して未知の世界を探検する、といった構想を練りました」(東京新聞 Tokyo Web 2021年4月30日掲載)。

同記事で、タケイ氏はロッデンベリーの描く設定について「早すぎた洞察力」とした。残念ながら、テレビ局には抗議の電話や封書が届き、視聴率は低迷したという。

しかし、『スタートレック』に熱狂した人も多かった。土星からやってきたジャズマン、サン・ラの70年代の映画『サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイス』のサイエンスフィクションは『スタートレック』からの影響が多く見て取れる。

「SFドラマとして楽しんだけど、ある種のユートピアとして観ていたね」

とは、アンダーグラウンド・レジスタンス(以下、UR)のメンバー、サバーバン・ナイトことジェイムズ・ペニントン。1965年にデトロイトで生まれ、人種差別や貧困など、ハードな70年代の地元の状況とともに『スタートレック』について訊ねたところ、振り返ってくれた。夜空を見上げ、まだ見ぬ銀河へ思いを馳せる。プロデューサーのロッデンベリがドラマに託した想いは、アメリカのハードな環境で育つティーンエイジャーたちの希望になっていった。

1950年代からドゥーワップ・グループのメンバーとしてキャリアを開始し、作詞作曲家として活動していたジョージ・クリントンは、70年にファンカデリックを結成。ジミ・ヘンドリックスが憑依したようなギターソロのみを10分以上に渡って聴かせる『Maggot Brain』(71年)のタイトル曲などは、ロックでも、ソウルやファンクでもない。とにかく聴いたことのないような楽曲を連発。

 

 

演奏技術うんぬん以上に、パワーとアイディアが先走った楽曲は、ブラックパワーはもちろん、サマー・オブ・ラブから目が醒めないヒッピーを巻き込んで大ヒットを記録する。クリントンは73年に『Cosmic Slop』を発表。

 

 

 

アルバムタイトル曲のMVでは、アフリカの民族衣装から白塗りの大道芸人風、そしてキラキラのスパンコールの衣装など。街をステージ衣装(?)で徘徊するメンバー一行が記録されている。しかし、これは見事な伏線となって、後に回収されることに。

ファンカデリック結成前、クリントンはパーラメントというバンドで活動していたが、レコード会社との契約上の問題でバンド名を使うことができなかった。70年に契約期間は終了するが、ファンカデリックがヒットしてしまったためしばらく休眠させ、寝かせに寝かせた74年からパーラメントを再始動させる。そこでブチ上げたのが『Mothership Connection』だ。『Cosmic Slop』から『Mothership Connection』へ連なる、そしてパーラメント/ファンカデリックのP-FUNKというスペースオペラの新シリーズの幕開けを意味している。

 

 

 

ジャケットでUFOから産まれるジョージ・クリントンは自らをスターチャイルドと名乗り、そのほかにはドクター・ファンケンシュタインやロリポップ、そしてプラシーボ・シンドロームなど。メンバーはそれぞれのキャラクターを演じ、実際にメインとなる楽曲も発表される。熱狂的なファンのいる『スタートレック』の個性的なキャラクター同様、『Mothership Connection』はコメディ色は強いけど、SF的な世界観をエンターテイメントとして昇華させた。長尺な上、アヴァンギャルドなファンカデリックやパーラメントの楽曲は、ラジオでオンエアされることが少なかった。その腹いせか、冒頭の「P. Funk (Wants To Get Funked Up)」で、独自のラジオステーション「W.E.F.U.N.K」の開局を宣言。 『Mothership Connection』はラジオ局でオンエアされるように進む。セレクトされる曲はゆったりしながら、腰にくるファンクナンバーばかり。

ちなみに宇宙を彷徨うジャケットの『Mothership Connection』だけど、裏ジャケットでは地球のうらぶれた路地裏に着地している。アメリカのブラザー&シスターたちが熱狂したことは、言うまでもないか。

 

【宇宙的名盤 vol.3】のプレイリスト

 

 

Reference list

 

▼この記事のReference

・東京新聞 Tokyo Web (2021年4月30日掲載)

・『ブラック・ミュージック・マシーン』野田勉:著

・『ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝 バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』ジョージ・クリントン:著

・SAPPORO POSSE(Pファンク徹底解説1 パーラメント「マザーシップ・コネクション」①)