特別連載2021.11.25
photo & text Yozo Hirano
出発まであと49日。
今日は訓練後、在ロシア日本大使公邸に招かれて会食に赴いた。スーツをロシアまで持ってきていないのでどうしようかと悩んだけど、宇宙飛行士はフライトスーツで参加することもあるようで、僕たちもブルーのフライトスーツに身を包んで参加した(フライトスーツは宇宙飛行士にとっては正装でもある)。
この会食は僕たちのフライトの激励と、宇宙産業における日露友好の場としての意味も込めて開かれたもので、ロスコスモスやGCTC、宇宙関係のお偉い様方が招待されていた。
初めて大使公邸に入り、建物の設えや雰囲気に僕はすでに圧倒されていたけど、映画なんかでよく見るような晩餐の席に着いてさらに場違いなんじゃないかと自分でも笑いそうになった。想像していたよりもずっと外交の場だった。こうなったら日露友好関係の為に成り切ってやるしかない。
大使のスピーチとともに会食がスタートした。ロシア流の会食では、ホストや代表者だけでなく、ゲストも全員がスピーチをしてそのたびに乾杯をするらしい。会食の場には14人参加していたので、合計で14回も乾杯することになる。
しかも簡単な一言での乾杯では済まされない雰囲気ができていて、ちょっと良い感じの話を5分そこそこはしないと、この場に招かれた者としてちょっとマズイぞという空気感が漂っていた(ように感じた)。
前澤はさすが小慣れた様子で、大使や関係者各位への感謝、今回の宇宙渡航への決意、時には笑いも織り交ぜつつ、我々側の代表としてのスピーチをあっさりと完璧にこなした。
僕も見よう見まねでスピーチし、訓練での様子や率直な感想、ロシアの皆さんの温かさに触れて頑張れていることなどをぎこちないながらに伝えると、皆温かく聞いてくれて何度目かの乾杯を交わした。慣れないもので、話し出すとあれもこれも言いたくなってしまい、不本意にも前澤よりも長いスピーチをしてしまい後で猛省した。
コマンダーのサシャも当然招待されていて、彼のスピーチには感動した。サシャが新米宇宙飛行士だった頃にJAXAの訓練で筑波に訪れた時、一人の日本人宇宙飛行士にとても良くしてもらったという。それから10年以上の時を経て、今回僕たちのコマンダーを務めることで、その恩返しがようやくできることを誇りに思うと。その日本人飛行士は、若田光一さんだった。若田さんがサシャにしてあげたことを、サシャが今まさに僕たちにしてくれている。毎日の訓練を楽しく一生懸命に取り組めるのも、コマンダーのサシャがいるからこそだ。日本人としてとても嬉しく思うと同時に、過去から繋がっているバトンの恩恵に感謝し、また身が引き締まった。
全員のスピーチが終わる頃、ディナーのコースもちょうど終了した。フルコースが終わる頃、ようやくスピーチが終了したとも言える。スピーチの合間合間にご馳走をかき込みながら食事するのは大変だったけど、サシャや元宇宙飛行士の方々の貴重な話を聞けたのはとても為になったし、立ち振る舞いやコミュニケーションの取り方、考え方に学ぶところが多かった。
そして皆宇宙を語るときは、何歳になってもキラキラと純粋な表情をしていた。何度宇宙に行っても、まだ何度だって行きたいという。本当に宇宙が大好きなのだ。
前澤がよく言うように、「好きに勝るものはない」と感じた。
1985年、愛媛県生まれ。2007年にZOZOTOWNを運営する株式会社「スタートトゥデイ」に入社、フルフィルメント部門の責任者として従事。現在は前澤友作氏のマネージャーと、「スペーストゥデイ」のプロデューサーを務める。