特別連載2021.11.28

平野陽三、宇宙へ行く。vol.47 10月28日:回転椅子。

photo & text Yozo Hirano

出発まであと41日。

バイコヌール入りまで残り1ヶ月を切り、バイコヌール行きを掛けた最終のメディカルチェックが始まった。血液検査や尿検査、視力検査、耳鼻科、心電図などの基本的な健康診断から、心理テストやカウンセリングなども行われる。

 

中でも今日は、僕の大の苦手な「回転椅子」があった。僕の苦手な、というより、得意な人はいないと思う。プロの宇宙飛行士でさえ、回転椅子は皆口を揃えて嫌いだという。これは宇宙酔い*に備えたトレーニングで、見た目よりも随分過酷なテストだ。

 

*宇宙酔い:重力に慣れた人間が無重力の宇宙空間に入った途端に吐き気を催す現象で、半数以上の宇宙飛行士が経験するという。

 

回転台のついた椅子に座り、身体に計測装置を付けられ、目を瞑ってぐるぐると高速回転させられる。普通に回っているだけでも気持ち悪いのに、リズムに合わせて首を左右に傾ける運動を繰り返し続けないといけない。すると、1〜2分したところで普通に生きている限りは体感したことのない世界に突入する。水平に回っているはずなのに、体がブランコやゴンドラに乗っているかのように前後に大きく揺れている感覚に襲われる。その大きな波から振り落とされてしまうと、もう左右上下がめちゃくちゃに回転するトルネードの世界に放り込まれる。そうなってしまったらもう終わり。すぐに吐き気が襲ってきて、吐くまで続けるか、そこでリタイアすることになる。

 

今回僕は5分ちょっとのところでギブアップ。その間、実は3回ほど吐き気を催していた。目を開けるとドクターが僕の顔の前でバケツを持って立ってくれていた。ちなみに前澤の今日の成績は僕より2分も長い7分。本当に回転椅子の辛さを知っているから、それだけで僕からすると尊敬に値する。

 

ロシア訓練に入るためのメディカルチェックで、この回転椅子は3月から何度か受けているけど、未だに克服できていない。プロの宇宙飛行士になるためには、このテストは倍の10分を耐えないといけないらしい。

さて、12月のローンチまでに何分までタイムを伸ばせられるか。バイコヌールに入ってからは毎日のように回転椅子トレーニングをするらしい…地獄が待っている。

 

<次の記事>vol.48 10月29日:今日もメディカルチェック。

 

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