特別連載2021.11.30

平野陽三、宇宙へ行く。vol.51 11月3日:オフィシャルポートレート撮影。

photo & text Yozo Hirano

出発まであと35日。

今日は‘MS-20’(僕たちのロケット名およびフライト名)のオフィシャルポートレート撮影があった。撮影スタジオに入り、宇宙服に着替え、背景紙にセットされた椅子に3人で座る。ロケットの座り位置と同じく、真ん中にコマンダーのサシャ、左に前澤、右に僕が座る。きちんと3人で撮影を行うのは、取材の時を除くとこれが初めてになる。なんだか記念写真館に撮影をしにきた家族みたいで嬉しかった。

 

短時間だったけど、3人でいろんな写真を撮った。真剣な顔、なごやかな顔、めっちゃ笑った顔、手を広げてみたり、拳を握ってみたり。撮られ慣れてない僕の表情だけどれもぎこちなかったけど、それでも記念に残る良い写真がたくさん撮れた。

 

最終的に選んだ写真は、前澤と僕が手を広げ、3人ともが笑顔の写真。通常の宇宙飛行士3人のオフィシャル写真では、国家予算で国のミッションを背負っている責任がある手前、あまり楽しすぎる感じにもできないので、基本的には真剣な表情や、せいぜい微笑んでいる表情のものがほとんど。でも僕たちのフライトは民間人によるプライベートフライトであり、これからの民主化の可能性を広げていく意味でも、見ている人に楽しくてハッピーな雰囲気が伝わらないと意味がない! と、僕たちの強い希望でこの写真を選ばせてもらった。サシャはすぐにこの意見に賛同してくれた。ロシアは伝統に厳しい文化なので、このリクエストはおそらく通らないだろうと内心では思っていたので、OKが出たときは逆に僕たちの方が驚いた。

 

スターシティの訓練所の廊下には歴代のクルーチームのオフィシャル写真が額装され並べられているのだけど、その並びにこの僕たちの写真は異質かもしれない。でもこれを機に、たまにはそういう宇宙飛行士のポートレートが出てきても面白いなと思ったりもする。

 

撮影のあとは再度宇宙服に着替え直し、ソユーズシミュレーターに入って、しっかり4時間の訓練。シミュレーターの中では集中しているので、4時間に感じられないくらい、いつもあっという間に終わるのだけど、連日ずっと同じ体勢で固まっているため、背中や腰がカチコチになって限界を感じ始めた。

 

でも明日からロシアは4連休。バイコヌール入り前の最後の休暇を、チームみんなでゆっくり過ごす予定だ。

 

<次の記事>vol.52 11月8日:束の間の4連休を終えて。

 

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