特別連載2021.12.01

平野陽三、宇宙へ行く。vol.57 11月15日:最終試験1日目。

photo & text Yozo Hirano

出発まであと23日。

今日は最終試験1日目。いつもより早くホテルを出発し、8時に訓練所に到着。フライトスーツを着て、いざISS試験に挑む。

 

ISSの試験は、1日の決められたサンプルスケジュールを時間内に正確にこなすというもの。モックアップ内に隈なく設置されたカメラで、コミッションやインストラクターに一挙手一投足をモニタリングされる。先々週に試験のランスルーを行っていたので大丈夫だろうと思って臨んだけど、そこには先日の倍以上の人数が待ち構えていて、会場は緊張感に包まれていた。なにやらメディアも数社来ていて、こんな感じだとは一切知らされていなかったので、一瞬雰囲気に飲まれそうになった。

 

試験の前に、コミッションから出された6枚のカードの中から、前澤が1枚を引いた。普通はコマンダーが引くものらしいけど、前澤はラッキーボーイだからとサシャが代わってくれた。このカードには緊急事態の内容が書かれていて、試験の最中に何かしらの緊急事態が発生するらしい。カードは裏向けられているので、僕たちは事前にその内容を知ることはできない。何が起こるか、いつ起こるか、始まってみてのお楽しみというわけだ。

 

モーニングカンファレンスからスタートし、食事や飲み物の準備、トイレ、撮影、データ送信、気圧チェック、ステーション内の物探し、MCCへのレポートなど、順調にこなしていく。前回のリハーサルで指摘されたことも意識しながら、一つ一つのタスクを丁寧に進めていった。前澤も僕も時間内に全てのタスクをこなし、最後のミーティングに差し掛かった頃、突如センターパネル付近からモクモクと白い煙が発生した。火事だ。

 

サシャがステーション全体に知らせるためのアラームを鳴らし、全員「イペカ」と呼ばれるガスマスクを装着してMRM2(僕たちのソユーズがドッキングする予定のモジュール)に避難した。ちなみにカードを引く前、一番引きたくないよね、と話していたのがこの火災だ。イペカは自分の吐き出した二酸化炭素を酸素に変換してくれる優れたガスマスクだが、装着すると暑くてマスクの中が一瞬で汗だくになってしまうので、僕たちはできれば火災は避けたいと話していた。それをラッキーボーイは見事に引き当てた。MRM2に避難し、MCCと状況を確認し合ったところで、試験の終了が知らされた。

 

試験が終わると別の棟に移動し、結果発表を受ける。結果発表のホールにはインストラクターの先生やお偉いさん方、数名の宇宙飛行士も含め総勢50名ほどが座って待っていて、僕たち三人は壇上へと上げられた。サシャが今日の振り返りをレポートしたあと、コミッションから結果が告げられる。全てのタスクにおいて、大きな失敗や抜けはなかったはずだし、それなりに自信はあったけど、細部を突かれたらいくつか減点はされるのだろう。この日のスコアは5点満点からの減点方式で、ミスの内容によって-0.2ポイント、-0.5ポイントといった具合に減点されていく。しかも三人連帯責任で、誰か一人のミスがチームの減点に繋がっていく方式だ。僕が足を引っ張っていないことを祈った。

 

結果は、、、減点なしの5点満点。みんなの顔に笑みが溢れた。ひとまずほっと安堵した。

 

明日は最終試験2日目。ソユーズのシミュレーターに入って、ローンチからドッキング、アンドッキングからランディングまでの往復のシミュレーション試験を行う。明日も気を抜かずに乗り切りたい。

 

<次の記事>vol.58 11月16日:最終試験2日目。

 

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