特別連載2021.12.03

平野陽三、宇宙へ行く。vol.62 11月20日:ロケットとの初対面。

photo & text Yozo Hirano

出発まであと18日。

今日はソユーズの組み立てが行われている「site254」という建物に移動し、第1回目のフィットチェックに向かった。ガガーリンの壁画が描かれた建物に入ると、すぐに僕たちが登場する予定のソユーズのフェアリング*部分がお出迎えしてくれた。そこには日本国旗とともに前澤の「MZ」ロゴが入っていて、のっけから感動した。

*フェアリング=打ち上げ時にソユーズカプセルを覆っているカバーのことで、打ち上げ時の空気抵抗を減らし、摩擦熱からロケットを守ってくれる役割がある。

 

フェアリングをぐるっと回って、次にソユーズカプセルにご対面した。黄色い階段を登り、3つのカプセルの最上部分、「BO」と呼ばれる「生活モジュール」の入り口でたくさんのカメラマンに囲まれ記念撮影をした。そこからフライトスーツのままカプセルの中に入り、ハッチを開けて「SA」と呼ばれる「帰還モジュール」に移動してシートに収まる。すべての機材や素材が当たり前だけど新品で、色も鮮明で、美しくかっこよかった。SpaceXのような前衛的な美しさはないけど、一つ一つのクラフトに無骨な美しさを感じた。こんなにも丁寧に作られた素晴らしいロケットが1回きりのフライトで使い捨てられると思うと切なくなるけど、それも含めてまた美しさなのかもしれない。

 

僕でこれだけ感動するくらいだから、前澤の感動といったら言い表せないだろうと思う。6〜7年前から構想し、多額の費用を掛け、訓練にも耐え、そしていわば自分専用のロケットがついに目の前に完成している。どんなにすごいスーパーカーやジェットでも、さすがに今回の納機は訳が違う。完成したソユーズを見つめる前澤の目はキラキラ輝いていて、まるで少年のように嬉しそうな表情をしていた。

 

フィットチェックでは、実際に通信のテストをしたり、操縦の不具合がないかをチェックしたり、例えば音のボリュームの調整だとか、ケーブルの長さの調整だとか、フライトするにあたって完璧に心地良い状態に仕上げていく。

 

フライトスーツでチェックが完了したあとは、実際に宇宙服に着替えて再度「SA」に入ってシートライナー(座席)がしっくりくるか、シートベルトに問題はないか等をチェックする。そしてもう一つ、初めてシートレイジングのテストを行なった。着陸する寸前にシートレイジングと言って、ランディングの衝撃に備えるためにシートライナーがグーンと起き上がる。それが思っていたよりも前方パネルぎりぎりのところまで上がってきて驚いた。シートレイジングの際に、変な体勢を取っていたり、何かその間に障害物があったりすると身体に危険がおよぶと教わっていた理由がようやく分かった。その後ハッチから抜け出るのにも一苦労した。

 

フィットチェックの後も、本番さながらのランスルーを行い、記者会見やリークチェックのリハーサル、メディアの取材にも応じた。パッキングされたペイロード*に漏れがないかも最終チェックを行った。

*ペイロード:ISSに持ち込む荷物のこと。

 

長い1日を終え、site254からホテルへ帰るバスの車窓から、バイコヌールの美しい夕焼けが見えた。夕焼けを見ながら、日々当たり前になりつつある僕の身に起きている不思議な体験を、まだ他人事のように回想していた。

 

<次の記事>vol.63 11月21日:市街観光。

 

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