きく2021.12.02
text: Katsumi Watanabe
国内外問わず、宇宙や星をモチーフにした楽曲やアルバムはたくさんある。確かに、まだ見ぬ惑星に想像を膨らませるし、美しい星空はラブソングのテーマにぴったりだ。 しかし、海外の宇宙をテーマにした作品を調べてみると、音楽家のバックグラウンドや社会背景なども色濃く反映されていることがわかった。この連載では、宇宙をテーマにしたアーティストとジャケットを中心に調べてみよう。今回は、1970年代に宇宙からマザーシップに乗って飛来し、ファンクで人類を救済したパーラメント/ファンカデリックことP FUNK軍団の『Live (P.Funk Earth Tour)』 について。
「十代の頃、ファンカデリックとクラフトワークは、とにかく大きな存在だった」と、1963年生まれで、デトロイト・テクノ第一世代とされるデリック・メイが教えてくれた。アフリカンアメリカンが奏でるファンクと、ドイツのエレクトリックミュージック。70年代に盛り上がりを極め、現在も世界中のポップミュージックに影響を与え続けている2種類の音楽だ。70年代にデトロイトで活動したラジオDJ、エレクトリファイン・モジョは積極的にファンクとエレクトリックミュージックを紹介し、深夜にも関わらず番組は大人気になったという。しかし、70年代にファンクとエレクトリックを分け隔てなく聴いていた、アメリカのティーンエイジャーがどれだけいたかと言うと、多分モジョの洗礼を受けたデトロイトの若者たちだけ。そんな極少数の中にデリック・メイがいて、後にRhythim Is Rhythim名義で「Strings Of Life」(1987年)が世界中で大ヒットするんだから、モジョの番組のインパクトと個性は強烈なものだったと思う。
ジャケットは1990年にイギリス<Kool Kat>から発表された編集版『Beginning』。「Strings Of Life」の別バージョン「Salasa Of Life」を収録。レコードは現在廃盤。
デリック・メイの地元の後輩たちが結成したアンダーグラウンド・レジスタンスのメンバーたちは、先輩が世界中を巡る最中、立派にデトロイトの音楽を受け継ぎ、昇華させたチームだ。中でも、DJ ロランドが『Knights of Jaguar』(1999年)は世界中のクラブを席巻し、イギリスをはじめヨーロッパではメジャーのチャートにも入る大ヒットを記録。
Azteca Mystic A.K.A. D J Rolandが<UR>から発表した 『Knights of Jaguar』。レコードは現在廃盤。
そんな最中の2002年、デリック・メイが創設し、カール・クレイグがオーガナイズをつとめた<Detroit Electronic Music Festival>に、パーラメント/ファンカデリックことP FUNK軍団を率いるジョージ・クリントンが出演した。日本のクラブシーンでもデトロイト・テクノが大人気になっていた頃で、現地がどんな様子だったのか見てみたかったため、現地へ飛んだ。会場はデトロイトとカナダをわけるデトロイト河のほとりにあるハートプラザという公園。巨大なメインステージの規模は、日本でいうなら<SUMMERSONIC>の会場となる幕張メッセくらいだろうか。ステージ上に掲げられた巨大なスクリーンには、アースツアーから帰国したという設定のUFOが映し出され、同時にメンバーが飛び出してくる。スターチャイルドことジョージ・クリントンを中心に、「P. Funk (Wants To Get Funked Up)」や「Give Up The Funk」など『Mothership Connection』からの曲、さらにはファンカデリックのファンク讃歌「One Nathion Under The Groove」など、30人近いメンバーが入れ替わり立ち替わりステージに登場。ひたすら踊るステージのメンバーと、観客の熱で彩られた4時間近のステージは、ただただ圧巻。
1977年に発表されたライブアルバム『Live (P.Funk Earth Tour)』は、バンドの絶頂期に発表されたライブアルバム。現在は廃盤ながら、過去にはライブ映像作品としてもリリースされていて、ステージの様子は衝撃的なものだった。まず、開演と同時に、宇宙からの閃光が巨大なスタジアムを包み、ステージの真上にUFOが着陸。中からはスターチャイルドを筆頭に、Dr.ファンケンシュタインなどのメンバーが登場。ステージには、数えられないほどのメンバーが登場して、お祭り騒ぎ。ベースにブーツィ・コリンズ、ホーンセクションはフレッド・ウェズリーなど、ジェイムス・ブラウンのバンド、JB’s(JBの傲慢で離れた)のメンバーを迎えた最盛期の演奏。『Live (P.Funk Earth Tour)』も2時間近い内容ながら、最後まで飽きることがない。
このライブアルバムがリリースされた1977年。映画『スターウォーズ』、そして『未知との遭遇』が公開され、エンターテイメント界が宇宙一色になる。もちろん、ブラックミュージックの世界にも、P FUNKとはまた違うスペースファンクのムーブメントが生まれることになる。
【宇宙的名盤 vol.4】のプレイリスト
▼この記事のReference
・『ファンクはつらいよ ジョージ・クリントン自伝 バーバーショップからマザーシップまで旅した男の回顧録』ジョージ・クリントン:著