特別連載2021.12.07
photo & text Yozo Hirano
出発まであと14日。
今日はプログレス(物資補給船)の打ち上げが予定されているため、コスモノートホテルでの予定を早めに切り上げて、バスでSite31という射場へ向かった。僕たちのソユーズが打ち上げられる射場と同じ場所ということもあり、出発目前に観客目線で打ち上げを見られるのはとても有難かった。
僕がロケットの打ち上げを見るのは今回で二度目。一度目もバイコヌールで、その時はSite1という違う射場からのソユーズ打ち上げで、偶然にも今回のバックアップコマンダーであるビッグサシャ(アレクサンドル・スクボルソフ氏)がコマンダーを務めたフライトだった。その時の打ち上げの衝撃と感動は、今でも鮮明に覚えている。
プログレスは、外見には僕たちが搭乗予定のソユーズとほとんど同じで、少しだけロケット全体の高さは低いらしい。人は乗らないので、打上げからドッキングまでが全自動で行われる。プログレスは定期的にバイコヌールから打ち上げられ、クルーの食料や日用品、実験器具や設備機材、システム機器、ときには新しいモジュールが打ち上げられることもある。
今回のプログレスでは、「プリチャル」という新しいドッキングモジュールが輸送され、今年7月に結合されたばかりの実験棟「ナウカ」にドッキングする。ソユーズの軌道モジュールBO(ベオ)よりも少し直径が大きい球体型のモジュールで、この打上げが成功すれば、プリチャルには最大で5箇所のドッキングが可能になる。プリチャルとは、ロシア語で「誕生」を意味するらしい。サシャたち関係者はUM(ウム / Uzlovoy Module)と呼ぶので、僕たちもウムと覚えている。
ちなみに、僕のISS滞在中の寝室はこのウムを予定している。クルークォーターと呼ばれるカプセルホテルのような個室に限りがあるため、人数が増えた場合には空いているモジュールで寝ることになるのだけど、今回このウムが広くて荷物もまだ少なくて快適だろうということで手配してくれた。一番最初に寝床として使用させていただくなんて、なんとも恐縮極まりない。
18時06分35秒の打ち上げを前に、17:30過ぎに射場へ到着した。以前来たSite1からの景色よりもだいぶ遠くにロケットを確認した。Site1からロケットまでの距離が約2kmだったから、今回はその倍の4kmはあるだろうか。少し遠くて残念な気もしたけど、見学サイト自体は今回のSite31の方が広くて開けていて見やすいかもしれないとも思った。
定刻まで残り数分、ドキドキしながらその時を待つ。人が乗っていないとはいえ、実際に今まさに飛び立とうとしているロケットを目前にすると緊張してきた。残念ながら少し厚めの雲が空を覆っていて、この距離からきちんと見られるか不安になった。
時間通り、18時06分を超えてからカウントダウンが始まった。
3…2…1… 少しの静寂の後、ロケットが見えなくなるくらいの大爆発が起こり、オレンジの光炎に包まれて一瞬機体が見えなくなった。と思った次の瞬間、太陽光よりも明るい強烈な閃光が地平線から僕たちの目を刺して、重たい機体が火の玉と一緒にグググーっと持ち上がった。機体が浮かび上がってから、僕たちのところに音が届くまで10秒以上。時間差で届いた音は、地響きと共にバリバリバリバリーっと鼓膜だけでなく身体の内側まで震わせる物凄い音だった。
天候が曇りだったため、リフトオフからわずか1分もしないうちに、ロケットは一瞬にして雲の中へと消えていった。この儚い感じもまた良いのだけど、天気が良ければ約2分後の第1エンジン切り離しまで肉眼で見ることができるらしい。僕たちの打ち上げは昼間だし、天気が良くて雲さえなければ高い確率で見えるという。せっかくなので、どうせなら当日は晴れてほしいと願っている。
それにしても、打ち上げはやっぱり感動した。人が乗っていないロケットでもこれだけ感動できるので、有人フライトではさらに感動すること間違いない。それがロケットに乗っているのが家族や知人だったらと思うと尚更だ。でもそれをすっ飛ばして、今回自分自身が乗ってしまうというのだから、我ながらなんとも不思議な体験をしていると思う。
だけど、打上げ基地のあるバイコヌールにまで来て、今まさにロケットの打ち上げまで目の前で見て、そしてローンチまであとちょうど2週間だというのに、なぜだか未だに実感が湧き切らず、不思議な感覚が続いている。
1985年、愛媛県生まれ。2007年にZOZOTOWNを運営する株式会社「スタートトゥデイ」に入社、フルフィルメント部門の責任者として従事。現在は前澤友作氏のマネージャーと、「スペーストゥデイ」のプロデューサーを務める。