きく2021.12.08

宇宙名盤 vol.5 宇宙へと旅立った、フレンチ・エレクトロ界のレジェンド。

text: Katsumi Watanabe

国内外問わず、宇宙や星をモチーフにした楽曲やアルバムはたくさんある。確かに、まだ見ぬ惑星に想像を膨らませるし、美しい星空はラブソングのテーマにぴったりだ。 しかし、海外の宇宙をテーマにした作品を調べてみると、音楽家のバックグラウンドや社会的、文化的な背景なども色濃く反映されていることがわかった。この連載では、宇宙をテーマにしたアーティストとジャケットを中心に調べてみよう。

今回は、1990年代に突如として現れ、2020年に宇宙空間へ旅立っていったダフト・パンク『Discovery』と松本零士原画によるアニメーションMV、そして名曲「Digital Love」のサンプリングソースになったジョージ・デュークの宇宙的なアートワークについて。

惜しまれつつも、2020年に解散を発表したフランスのエレクトロ・デュオ、ダフト・パンク。デビューアルバム『Home Work』(1996年)から、最後のアルバムとなった『Random Access Memories』(2014年)まで。さらに、代表曲である「Burnin’」(97年)や「Get Lucky」(13年)などのシングル曲など。70〜80年代のディスコやソウル〜ファンクをサンプリングし、徹底的にキャッチーな楽曲は、ディスコリバイバルの余韻もあり、どの作品も中古レコードの価格が一斉に高騰し、店頭を賑わせている。

 

「Get Lucky」(2013)

 

メンバーはトーマス・バンガルターとギ=マニュエル”・ド・オメン=クリストの2人組。結成当初は顔出しNGのDJ/プロデューサーユニットだったが、『Homework』の想像を遥かに超える大ヒットを記録。

 

「Da Funk」(1995)

 

その結果、セカンドアルバム『Discovery』(2001年)発表時には、ロボット仕様のマスクを被り、ライブやパーティの現場に登場。苦肉の策かと思いきや、実は2人ともSF映画やコミック、日本のマンガ/アニメの大ファンというオタ気質。予期せず転がり込んだ大金で特注したコスチュームは、1人1000万円を超えていたという噂も。当時のマスクを見てみると、ロボットというより『宇宙刑事ギャバン』(テレビ朝日系)によく似ている。シングルカットされた「One More Time」のMVは、松本零士原画によるSFアニメーション。

 

「One More Time」(2000)

 

『宇宙戦艦ヤマト』のデズラー総統を彷彿とさせる、青い顔をした異星人バンドが、キャッチーでゴキゲンなディスコビートを奏でる。松本ファンの2人としては、夢の頂点を極めた気持ちだっただろう。

この曲に決定的なインパクトを与えたのは、米・ニュージャージーのシンガー、ロマンソニーによる熱唱だ。ディスコをサンプリングしてアップデートしたエレクトリックビートと、人間らしい体温を持ったメロディが、その後のダフトパンクのトーレドマークになっていく。そして、さらに衝撃的だったのが続くシングル「Digital Love」だ。ファンキーなリズムと、甘いメロディは、現在でもCMソングに起用されることもある超名曲 。MVはもちろん松本零士原画。宇宙における恋って、壮大かと思いきや、主人公の男の子が彼女と連絡が取れなくて不貞腐れるシーンがあったりして。ラブコメも大好きなトーマスとギ=マニュエルによる、意外と等身大なプロットが笑わせてくれる。

 

「Digital Love」 (2001)

 

そして、この曲のサンプリングソースになっているのが、ジョージ・デュークの『Master Of Game』に収録されている「I Love You More」(1979年)。60年代から音楽活動を始め、ジャズドラマーのビリー・コブハムから、大統領選に立候補したフリークロック・スターのフランク・ザッパまで、幅広い変態(敬意を込めて)たちと共演する鍵盤奏者だ。デュークは高い演奏力と同時に、最新のテクノロジーに興味を示し、70年代前半からシンセサイザーを導入。『Master Of Game』や82年の『Dream On』では、宇宙空間に、スペースシップに見立てたショルダーキーボードを飛ばすアートワークを披露。度肝を抜く演出に、ダフトパンクの2人も魅了されたことは間違いない。

 

 

2007年に幕張メッセで行われたダフト・パンクの来日公演では、ステージのギリギリまでを使い、青く輝くピラミッドを設置。その中腹部分に、コックピットに見立てた演奏ブースをスタンバイさせ、2人が演奏する。この様子は『ピラミッド大作戦』というライブ盤になっている。ピラミッドとなると、「宇宙のファンタジー」や「ジュピター」を収録したE,W&Fことアース・ウィンド & ファイヤーの『太陽神』(1977年)など、70年代にアースがコンセプトにした宇宙と神殿というテーマを想起させる。

 

 

E,W& Fの宇宙的なコンセプトは、洗練された華々しいエンターテイメントだけど、その根元にはサン・ラやP FUNKが唱えたアフロフューチャリズムの影響がある。80年代後半の米・デトロイトで、ホアン・アトキンスやデリック・メイなど、アフロフューチャリズムの影響を公言するデトロイト・テクノのDJ/プロデューサーの活動が盛んになった。アフロフューチャリズムの正統的な後継者はデトロイトテクノにある。しかし、アフロフューチャリズムは、時や国境、そして人種を越え、フランス人のオタク2人の心にも響いたのだった。

 

宇宙名盤vol.5のプレイリスト