体感する2021.12.24
text: Momoka Oba
宇宙ビジネスの拠点として注目される街・日本橋で開催された「宇宙の仕事」をテーマとしたイベント〈HELLO SPACE WORK! NIHONBASHI〉。イベント期間中にはJAXA宇宙飛行士候補生募集をはじめ、ファッション、クリエイティブ、法律、女性……などなど、あまり知られていない多様な宇宙の仕事・働き方に注目した9つのトークセッションを開催。
本記事では、2つ目のセッション「13年ぶりにスタート、新しい世代の宇宙飛行士募集」をレポートします。
13年ぶりとなる日本人宇宙飛行士の募集がついに開始! この募集では、身長制限が緩和されたり、“文系”の人も応募できたりと、これまで以上に多様な人々に宇宙へ旅立つチャンスが与えられることに。本セッションでは、宇宙飛行士候補者への応募を表明している日本テレビアナウンサー・辻岡義堂さんをMCに迎え、JAXA宇宙飛行士の金井宣茂さん、前澤友作さん、平野陽三さんのバックアップクルーを務めたスペーストゥデイの小木曽詢さんが登壇。宇宙へ行くまでに必要な準備や宇宙飛行士に求められるものについて、ざっくばらんに語ってくれた。
こころに残ったことば
「彼らが宇宙へ到達した時は、人生で一番感動しました」(小木曽詢)
「私のように、他の仕事を経験した上で宇宙を目指すのもアリなんじゃないかな」(金井宣茂)
「国籍や言葉が違っても、宇宙が好きだという気持ちは一緒」(金井宣茂)
辻岡さんの「宇宙飛行士にズームイン!」という一言を合図に、イベントがスタート。前澤友作さんと平野陽三さんの宇宙旅行をサポートする小木曽さんは、モスクワにある管制室からリモートで参加。「ぶっちゃけ話もしていきたいのでよろしくお願いします」という金井さんの言葉に、会場のテンションも盛り上がる。
まず気になるのは、前澤さんや平野さんとともに訓練を受けていたという小木曽さんのエピソード。体に重力負荷をかける装置での訓練や、緊急時に備えた準備など、その内容は私たちが想像する以上にハード。モスクワでのメディカルチェックの際には、なんと急遽、鼻の手術を受けることになったのだとか……。「訓練の内容は職業宇宙飛行士と同じ部分が多く、非常に高いレベルを要求されていると思います」と金井さんも驚いた様子。そんな厳しい訓練を経験しつつも、「自分も宇宙へ行きたい」と二人を羨むことはなかったという小木曽さんは、「彼らが安心して宇宙へ行けるようなサポートをする、という思いでいたので、あまり自分が行くことは考えていませんでした。打ち上げの瞬間に初めて『行ってみたいな』とも思いましたが、やっぱり、彼らが宇宙へ到達した時は、人生で一番感動しましたね。近くで見ていた分、込み上げてくるものがありました」と語る。
宇宙飛行士として選ばれた後、実際に宇宙に行くまでの準備として、最も重要なのが訓練業務だ。選抜後2年間の基礎訓練に始まり、正式に認定されてミッションが決まるまでに数年、ミッション決定後にも1〜2年の訓練が待っているそう。「下積み期間がとても長いですね」と辻岡さんが驚くと、「私は初めてのミッションまで8年ほど訓練しました。さすがに8年もやると、大抵のことができるようになりますよ」と金井さん。訓練や搭乗以外に、地上から宇宙飛行士をサポートする技術業務や、広報・アウトリーチ業務も仕事に含まれる。“宇宙”飛行士という名前のとおり、宇宙空間で働く姿を想像していたけれど、地上での業務がこれほど多いとは!
また、今回の募集の最大の特徴は、さまざまなバックグラウンドを持った人が応募できるということ。元・海上自衛隊の医師という経歴を持つ金井さんは、「訓練に耐える素養のある方なら、違うジャンルの人でも宇宙飛行士になれるはず。私のように、他の仕事を経験した上で宇宙を目指すのもアリなんじゃないかな」と話す。「私は文系で、ロケットがなぜ飛ぶのかさえ知りませんでした。頭ですべて理解しようとするのではなく、反復訓練をして体で学ぶ感覚でしたね」と小木曽さん。二人の話を聞いて、エンジニア系の知識のない私でも、情熱や根性さえあれば宇宙飛行士になれる……? と想像が広がる。
いよいよセッションも終盤。質疑応答では、「宇宙飛行士に定年はある?」「宇宙に必要な知識を覚えるための勉強法は?」「勤務外でも食事や行動に制限がある?」など、およそ10名の方々から興味深い質問が投げかけられた。中でも印象的だったのが、「宇宙飛行士になれる人の共通点は?」という問い。金井さんは「国籍や言葉が違っても、宇宙が好きだという気持ちは一緒。みんな熱くて、お互いを思いやる気持ちがあるように感じます」と答えた。「宇宙に関わる方々は純粋な人が多いですよね。熱い想いのある人なら、きっと宇宙へ行けるはずです」と小木曽さん。最後には、金井さんが「やりがいもあるし、楽しい職場です。新しい時代が始まっているので、我こそはという方はぜひ手を挙げてください」と締めくくった。
宇宙へ行くことの大変さが身に沁みつつ、宇宙飛行士という職業を少し身近に感じることができた90分間のトークセッション。会場に集まった方々の真剣な眼差しからも、今回の募集がいかに注目されているのかを実感した。いったいどんな人が新たな宇宙飛行士として採用されるのか? もしかしたら、自分の知り合いから宇宙飛行士が誕生するのかも? と、期待で胸がいっぱいに。どんな試験が行われて、誰が選ばれるのか、これからも目が離せない。
1990年神奈川県生まれ。15歳でニューヨークに単身留学。慶應義塾大学経済学部卒業後、2014年に株式会社博報堂入社。2017年より博報堂ケトルにPRディレクター・プロデューサーとして参加。SpaceX社と計画されている、民間人初の月周回プロジェクト「dearMoon」の発表会現場責任者を務めた後、同社を退社。現在は前澤友作の関連会社に勤務し、前澤の広報、企画のディレクター・プロデューサーを務める。前澤と共にISSに渡航する平野陽三(同社役員)のバックアップクルーとして訓練に参加。
1976年東京都生まれ。2017年12月から2018年6月にかけて、ISS第54次/第55次長期滞在クルーのフライトエンジニアとしてISSに168日間滞在。滞在中は、ミッションテーマの「健康長寿のヒントは宇宙にある。」に基づく各種利用実験活動のほか、船外活動やドラゴン補給船運用14号機(SpX-14)の把持などを実施。現在は、J-COM(宇宙飛行士との交信を担当する管制官)として「きぼう」運用管制業務に携わるとともに、日本人宇宙飛行士によるミッションおよびミッション準備活動を支援中。
日本テレビアナウンサー。2009年入社。これまで日曜朝「シューイチ」、土曜朝「ズームイン!!サタデー」などに出演し、現在の担当番組は、土曜昼「ゼロイチ」。その他、多数のバラエティ番組、バスケットボールやボクシングといったスポーツ実況でも汗を流す。幼き頃より宇宙開発の志の高さに魅了され、その想いはアナウンサーになった今も変わらない。1986年生まれ。神奈川県藤沢市出身。妻と娘と2人の息子を愛する3児の父。
IBMデザイナー。”テクノロジーとオープンイノベーションで日本発の革新的事業を創出する”IBMのプログラム「IBM BlueHub」チームに所属。本セッションでは、グラフィックレコーディングでゲストスピーカーの話や会場での質問など可視化するサポートを行う。