体感する2021.12.27
宇宙ビジネスの拠点として注目される街・日本橋で開催された「宇宙の仕事」をテーマとしたイベント〈HELLO SPACE WORK! NIHONBASHI〉。イベント期間中にはJAXA宇宙飛行士候補生募集をはじめ、ファッション、クリエイティブ、法律、女性……などなど、あまり知られていない多様な宇宙の仕事・働き方に注目した9つのトークセッションを開催。
本記事では、3つ目のセッション「宇宙×クリエイティブ | 未来の体験は宇宙から生まれる!」をレポートします。
2021年は民間人の宇宙旅行のニュースを中心に、特別意識をしなくとも、「宇宙」というキーワードを目にする機会が多かった。気づけば、日常生活の中に「宇宙」が浸透してきている? 本セッションでは雑誌や広告、テクノロジーなど、クリエイティブの領域で宇宙に携わる4人が登壇。「宇宙×クリエイティビティ」の可能性とその魅力とは?
こころに残ったことば
「宇宙はワクワクや夢で語られることが多いが、これからの宇宙産業はやらなくてはならないこと。かつてのインターネットのように、すべての人が宇宙産業に関わる時代になる」(片山俊大)
「“可能性”に興味があります。これから宇宙飛行士は職業宇宙飛行士ではなくて、シェフやエンターテイナーなどいろんな人が行くようになる。きっとそこからまた新しいいろんなことが生まれると思うんです。そこに携わってみたい」(石下佳奈子)
「日常の中に宇宙がある、という状況を作れないとその価値は続かない」(馬場鑑平)
「今後は宇宙が好きだから宇宙を表現したい、とは異なる次元になっていかなければいけないのでは」(田島朗)
クリエイティブの領域で宇宙を伝える4人のトークは、雑誌『Hanako』編集長の田島朗さんの紹介から始まった。南極と宇宙に行くために編集者になったという田島さんは、ずっとやりたかったという、宇宙特集号を制作しているそう(2021年12月25日発売)。働く女性に向けたライフスタイル情報を扱う『Hanako』で、どう宇宙を取り上げ、宇宙との接点をキャッチーに、カジュアルに伝えるか。言葉を軸にマーケティングコミュニケーション領域の一部で宇宙に携わる博報堂の石下佳奈子さんが手掛けた「宇宙飛行士に、転職だ」というコピーは、まさにそのクリエイティブの力を感じる言葉だったと田島さんは話す。
テクノロジーやデジタルコミュニケーションの領域から、宇宙をコミュニケーションメディアとして考えるバスキュールの馬場さんは、宇宙と地上をリアルタイムでつなぐKIBO宇宙放送局をプロデュースしている。馬場さんは「遠い宇宙に興味を持ち続けることは難しいが、単発で終わることなく、ずっと続くものとして事業が確立するような状況を作っていきたい」と話す。そうした取り組みの一つが、今年の年末も実施予定のライブ配信「THE SPACE SUNRISE LIVE 2022」。年末に初日の出を見るという習慣と宇宙を掛け合わせて新しい年末の恒例行事を目指した企画だ。
ここまでは身近になったと言ってもまだまだ特別な宇宙との距離をどう縮めるか? と話を聞いていたけれど、「宇宙はワクワクや夢で語られることが多いが、かつてのインターネットのように、すべての人が宇宙産業に関わらざるを得ない時代になっている」という電通の片山俊大さんの言葉で、宇宙との距離が急に縮まったように感じられた。片山さんはありとあらゆる人が宇宙という領域で活躍する時代を迎える前に「早めに移行して、対応して行くことが大事」と、書籍の執筆等、宇宙ビジネスの重要性を伝える活動も行なっている。
宇宙を使ったり、伝えたりしてきた彼らにとって、宇宙の魅力は何だろう? 「一言では言い表せないですが、これからの“可能性”にも興味があります。宇宙飛行士は職業宇宙飛行士ではなくて、シェフやエンターテイナーなどいろんな人が行くようになる。きっとそこからまた新しいいろんなことが生まれると思うんです。そこに携わってみたい」と石下さん。馬場さんは「誰もが(宇宙に)行ける時代はまだまだかかると思いますが、その距離をできるだけ、テクノロジーの力で乗り越えることができれば、もっといろんな人たちが宇宙で表現するとか、クリエイティブの領域として宇宙を『使う』ということとか、いろんなことが出来るのではないか」と話す。
最後に田島さんから「宇宙のことを普通に話せる世の中になっていくといいな、と思う一方で、今後は宇宙が好きだから宇宙を表現したい、とは異なる次元になって行かなければいけないのでは」という問いかけが。「リアルな宇宙でなくとも、すでに地上にある宇宙をテーマにしたものと衛星のビックデータをつなげるなど、いろんな意味の宇宙産業を新しく作ることができる」と話す片山さんに、石下さんもその可能性にワクワクしていると同意していた。馬場さんからはまた別のアプローチとして「何かクリエイティブを作り、それを届けて対価をもらうことを継続的にやるのは難しい。日常の中に宇宙がある、という状況を作れないとその価値は続かないと思っています。だからこそ完全に新しいものを作るよりも、いまの生活が宇宙とつながることでより楽しいものが生まれてくる、という方法を探し続けています」と話す。
テクノロジーが発達した現代の宇宙×クリエイティブには、リアリティを持って、私たちの生活と宇宙との距離をグッと近づけるパワーがある。その中で私たち宇宙編集部はどんな風に、どんな宇宙を発信していこうか……。トークの中で紹介されたさまざまなアプローチでの「宇宙×クリエイティブ」の話を聞きながら、そんなことを考える自分がいた。
博報堂入社後、コピーライターとして配属。「言葉」を軸に、CM制作、ブランディング、ネーミング、商品開発、デジタルなど、領域に関わらず幅広く携わる。幼少期から宇宙に関心があり、高校時代にはニュースにもなった「火球」を目撃。2011年からは、宇宙をテーマにクライアントの課題解決をする「ひらけ宇宙プロジェクト」のメンバー/リーダーとしても活動。Cannes Lions、D&AD、LIA、Spikes ASIA、ADFEST、ACC、TCC新人賞、他多数受賞。
電通入社後、メディア、クリエーティブ、コンテンツ、営業等の領域に携わり、政府・公共団体のパブリック戦略担当を歴任。日本とUAEの宇宙・資源外交をきっかけに、宇宙関連事業開発に従事。専門分野は「広告・PR領域全般」「新規事業創造」「M&A」「公共戦略/官民連携推進」「エンタメ・コンテンツ戦略」等。
1997年マガジンハウス入社。98年『BRUTUS』編集部に配属、2010年同誌副編集長に。2016年10月発売号より現職。『Hanako』リニューアルに着手し、雑誌だけにとどまらず、デジタル・読者コミュニティ・イベント・商品開発・海外事業などを手がけ多メディア化を図ることで、現在につながる『Hanako』のブランド展開をプロデュースしている。
1976年大分県生まれ。慶応大学総合政策学部卒業後、2002年バスキュールにプログラマとして入社。2010年クリエイティブディレクターに転身。広告、アトラクションイベント、教育、アートなど、様々な領域のインタラクティブコンテンツの企画制作に携わる。宇宙と地上をリアルタイムにつなぐ「KIBO宇宙放送局」、国際宇宙ステーションが見える日時をお知らせする「#きぼうを見よう」のクリエイティブをリードしている。