体感する2021.12.24

Closing Session
未来の宇宙の仕事

text: uchu-henshubu

宇宙ビジネスの拠点として注目される街・日本橋で開催された「宇宙の仕事」をテーマとしたイベント〈HELLO SPACE WORK! NIHONBASHI〉。イベント期間中にはJAXA宇宙飛行士候補生募集をはじめ、ファッション、クリエイティブ、法律、女性……などなど、あまり知られていない多様な宇宙の仕事・働き方に注目した9つのトークセッションを開催。

本記事では、9つ目のセッション「Closing Session | 未来の宇宙の仕事」をレポートします。

 

 

 

 

人類の活動領域が宇宙へと広がっていくことで、これからどんな新しい仕事が生まれていくのでしょうか。日本SF大賞を受賞されている作家の小川哲さん、宇宙と地上を双方向でつなぐ世界唯一の宇宙放送局「KIBO宇宙放送局」代表の朴正義さん、Sony Space Entertainment Projectで宇宙戦略プロデューサーを担当されている村木祐介さんを迎え、それぞれの妄想を手がかりに、近い未来の宇宙の仕事、宇宙の仕事により生まれる新たな価値観についてお話しいただきました。

 

 

こころに残ったことば

「大気があることで発達した感覚は、地球人独自のものである可能性が高い。エネルギーがなければ何も見えず、聞こえない宇宙空間で、触覚、味覚文字を発明したら、饅頭の味で気持ちを伝える日も来るかもしれない」(小川哲)

「特殊な隔離環境においては人の精神を安定させる仕事が不可欠になります。宇宙航海時代を成功に導くのは、“憎まれ屋”という仕事なのかもしれません」(村木祐介)

「重力が異なり、1日、1年の長さも異なり、暦もまだ存在しない世界で、宇宙初の恒例行事を創りたい」(朴正義)

 

三日間に渡って開催されたトークセッションのクロージングは、身近になりつつある宇宙の仕事から、SF映画で描かれるような少し先の宇宙の仕事まで、近未来への想像を拡張させるセッションとなりました。作家・小川哲さんが考える宇宙の未来の仕事は「空想宇宙人マニュアルの編纂」。そもそも宇宙人にとってみたら、私たち地球人も宇宙人。「価値観や共通言語として何が通じると思いますか?」という小川さんからの問いかけに、数字は使えるのか。元素記号は概念として共通するのではないか。元素記号で自己紹介するとしたら「私は炭素何%でできています」ということもあり得るかもしれない……などトークでも広がる妄想。そして小川さんからは「触覚、味覚文字の発明」という仕事の提案も。「大気があることで発達した感覚は、地球人独自のものである可能性が高い。エネルギーがなければ何も見えず、聞こえない宇宙空間で、触覚、味覚文字を発明したら、饅頭の味で気持ちを伝える日も来るかもしれない」と小川さん。そもそも“五感”と呼ばれる感覚も、大気の存在する地球環境における特殊なものかもしれません。そしてもし味覚文字が浸透したら、緊急時にコミュニケーションをとる手段として、饅頭で気持ちを伝え合う日も来るかも……? 情報をアーカイブする図書館ならぬ、饅頭が並ぶ建物ができたら面白いですよね、というモデレーター西村さんの返しに思わず饅頭室を想像してしまいました。そんな新たなコミュニケーション手段を考えること自体が、全く未知な存在を理解することに繋がるのかもしれません。

 

身体の半分が宇宙でできているような感覚があるというJAXA職員でもあり、ソニーで宇宙エンジニア・宇宙案内人として働く村木祐介さんが考える宇宙の未来の仕事は「憎まれ屋」。実はこの仕事は、1973年の不二子・F・不二雄氏の作品にも登場しているのだとか。舞台は宇宙航海時代。船員全員から嫌われている人物が、旅の終盤、船長から“憎まれ役”という役職で報酬を支払われます。そして物語の最後、船員を一致団結させ、航海を成功に導くために雇われていた人物だったということが明かされるのだそうです。長時間同じ人と共同生活をせねばならず、何かあってもどこにも逃げられない。「特殊な隔離環境においては人の精神を安定させる仕事が不可欠になります。宇宙航海時代を成功に導くのは、“憎まれ屋”という仕事なのかもしれません」と村木さん。セッション当日はオンラインで参加された、KIBO宇宙放送局主宰の朴正義さんも、先日国際宇宙ステーションへ飛び立った前澤友作氏を見送る際、アドバイスすればよかったですね……とポツリ。

 

そんな朴さんが考える宇宙の未来の仕事は「宇宙の年中行事づくり」。例えば地球の基準で宇宙の時間を捉えると、火星は1年が地球の2倍、600日ほど。実際に季節や暦の存在しない宇宙空間において人工的に彩や季節を与えないと単調になってしまうのではないか、と話す朴さんに、アジアでは旧正月が多いように、国と国でも年中行事が異なり、地球正月と火星正月などもできるかもしれませんねと小川さん。「重力が異なり、1日、1年の長さも異なり、暦もまだ存在しない世界で、宇宙初の恒例行事を創りたい」と朴さん。「宇宙童話作家」「宇宙音楽家」「宇宙楽器職人」など地球と時間軸も常識も異なる宇宙で生まれ育った子どもが、どんな童話を読んで、どんな音楽を聞いて育つのか。宇宙における当たり前がどのように作られるのかによって表現方法も変わるはず、と新たなお仕事のアイデアについてもお話された。「宇宙と直接関わらなくても、地球から宇宙へ、視点がメタに移り変わっていくことで国と国の境目や、社会との関わり方、何が美しいかなどの価値観も変化していくのではないでしょうか」という朴さんの言葉も強く印象に残っています。現在地球上でタブーとされていることも、物理的な前提条件も環境も全く異なる宇宙においては180度裏返ってしまうのかもしれません。そして今現在の地球から未来の宇宙での仕事を想像することで、地球での美意識や価値観もまた、変容していくのかも。そんなみなさんのトークを聴きながら、現在進行形で新たに生まれつつある宇宙の仕事への妄想は、これからも続いていきそうです。2022年の年明けにはKIBO宇宙放送局による「宇宙の初日の出」が開催されるようなので、こちらもお見逃しなく。

 

 

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