きく2021.12.24

宇宙名盤 vol.7 『スター・ウォーズ』に魅せられて。

text: Katsumi Watanabe

国内外問わず、宇宙や星をモチーフにした楽曲やアルバムはたくさんある。確かに、まだ見ぬ惑星に想像を膨らませるし、美しい星空はラブソングのテーマにぴったりだ。 しかし、海外の宇宙をテーマにした作品を調べてみると、音楽家のバックグラウンドや社会的、文化的な背景なども色濃く反映されていることがわかった。この連載では、宇宙をテーマにしたアーティストとジャケットを中心に調べてみよう。

今回は1977年に全米公開された映画『スター・ウォーズ』の迫力に魅了されたジャズマンたちの珍品から傑作について。

『スター・ウォーズ』(1978年日本公開、以下SW)に、人生を狂わされた人は多い。近年の作品を監督、制作総指揮を取ったJ・J・エイブラハムや、『マンダロリアン』シリーズ(2019年〜)などを手がけるプロデューサーのジョン・ファブローだって、元々は熱いSW愛を胸に映画界へ身を投じた。さらに、熱心なSWファンの心意気を描いた劇映画『ファンボーイズ』(08年)、狂気のドキュメンタリー『ピープルVS ジョージ・ルーカス』という作品だってあるくらい。ジョージ・ルーカスが描いた宇宙は、見る人に無限大の夢を与えた。そして同時に、罪深い映画でもある。

音楽の世界にも、SWに魅了された人たちも多い。まずは、ジャズ・オルガン/キーボード奏者のリチャード・グルーヴ・ホルムズだ。50年代に音楽家としてのキャリアをスタートさせ、60年代にはジャズの名門〈Pacific〉や〈Blue Note〉といった名門からもリーダー作品を発表した。堂々としたキャリアがありながらも、ホルムズもまたSWに人生を狂わされた人だといえる。77年にSWが公開された直後に『Star Wars / Close Encounters』というSWと映画『未知との遭遇』(77年全米公開)のテーマソングをメドレーにした作品を発表。土臭くR&Bフレイヴァーの強いリズム、インディーズレーベルゆえ予算がなかったのか、かなりチープなオーケストラをバックに奏でられるオルガンの主旋律。また、『未知との遭遇』の例のメロディも、劇中と同様、どうせならシンセサイザーで演奏すればいいものを、わざわざオルガンで奏でる始末。同時期に発表され、ゴージャスなアレンジでディスコを中心に大ヒットしたミーコの『スター・ウォーズのテーマ』(77年)と比較してしまうと、やはり聴き劣りしてしまうが、同年にカバーしたということは、相当な感動や熱意があったことだけは伝わってくる。そして、2021年の現在聴き直してみると、ホルムズの『Star Wars / Close Encounters』は、モンドミュージック的などこかほっこりした質感がある。さらに、現在のレトロフューチャー的な視点や、ヒップホップのトラックメイキングにおけるサンプリングソースとして、十分に見直す価値がある。

 

 

同じく77年には、サックス奏者のロニー・ロウズもまた、スペイシーなジャケットの『Friend & Strangers』を発表。宇宙船なのか、デコレーションしたバイクなのか…タイトルからして『未知との遭遇』からのインスパイアかな。驚くことにこの作品は、かの名門〈Blue Note〉からリリースされている作品。クールなジャズを代表するレーベルから、こんなギンギンのジャケット、しかも内容はディスコフュージョン。70年代のジャズ界は、意外と大変だったのか…。しかし、ロウズはレーベルを移籍した次回作『Flame』(78年)、『Solid Ground』(81年)もジャケットのテーマは宇宙。1950年代生まれだというロウズは、『スタートレック』シリーズなどを見て、影響を受けたのかもしれない。話を『Friend & Strangers』戻すが、タイトル曲は、いわゆる90年代のゴールデンエラと呼ばれるヒップホップ黄金期のプロデューサーたちからサンプリングされ、グランド・ダディ I.U.「As I Flow On」のトラックに昇華されている。

 

 

翌78年には、マイケル・ジャクソンからマスターズ・アット・ワークまで、誰もが知っているギターフレーズを手掛けている名ジャズギタリスト、ジョージ・ベンソンまで『Space』を発表。「Sky Drive」など、思わせぶりの曲もあるけど、実際はベンソン印のラテンフュージョン。しかし、ラストを飾る「No Sooner Said Than Done」は、バレアリックの名曲としてイビザの伝説のDJ、ホセ・パディーヤもプレイしたメロウな名曲だ。

 

 

80年代を目前にした70年代後半には、『スター・ウォーズ』の大ヒットも手伝い、映画館の大きなスクリーンで、宇宙を擬似体験ができるようになってきた時期。当時、眼前に拡がる銀河は、さぞかし迫力があったはず。映像だけに限らず、音響もまたど迫力だったという。ホルムズやロウズ、そしてベンソンも、そのインパクトに影響を受けたのだろう。ミュージシャンだけに限らず、今では伝説として語り継がれているNYのクラブ〈Paradise Garage〉のレジデントDJ、プロデューサーのラリー・レヴァンもその一人だ。レヴァンに連れられて10回以上も『スター・ウォーズ』を観に行ったというサウンドエンジニアのリチャード・ロングは「ラリーと『どうやったらクラブで、SWみたいな迫力のあるサウンドが鳴らせるのか』。研究するために何度も映画館へ行ったんだ」と回想している。こうしたレヴァンやロングの試みは、〈Paradise Garage〉の音響装置へ反映されていく。NYのハウスミュージックの発展はもちろん、その中にはサン・ラやPファンク軍団のアフロフューチャリズムを引き継ぐ、デトロイトテクノを作り出すDJ/プロデューサーたちの姿もあった。

(次回、デトロイト編に続きます)

 

宇宙名盤vol.7のプレイリスト

 

Reference

▼ 宇宙名盤 vol.7

・『House Legend』著: Remix編集部 

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