きく2022.01.19
text: Katsumi Watanabe
国内外問わず、宇宙や星をモチーフにした楽曲やアルバムはたくさんある。確かに、まだ見ぬ惑星に想像を膨らませるし、美しい星空はラブソングのテーマにぴったりだ。 しかし、海外の宇宙をテーマにした作品を調べてみると、音楽家のバックグラウンドや社会的、文化的な背景なども色濃く反映されていることがわかった。この連載では、宇宙をテーマにしたアーティストとジャケットを中心に調べてみよう。
今回は、アメリカポップス史上初のエレクトロファンク「Clear」(1983年)を発表したサイボトロンを解散させた後、デトロイトからテクノを発展させたホアン・アトキンス、デトロイトテクノの宇宙的なサウンドについて。
ピアノの美しい旋律と、シンセサイザーの荘厳なストリングス、そしてパーカッションの効いたビート。デリック・メイがリズム・イズ・リズム名義で発表した「Strings Of Life」(1987年)は、いまだに日本でもCMやテレビ番組のBGMとして使用されているので、聴いたことがある人も多いと思いはず。デトロイト河を挟んだ隣に位置するカナダのウィンザーから、デトロイトへ遊びに来ていたというDJ/プロデューサーのリッチー・ホウティン曰く「クラブへ行けば『Strings Of Life』、ラジオをつければ『Strings Of Life』って感じ(笑)。リリース時はとにかく、どこへ行ってもあのピアノとストリングスの曲がかかっていた。もう一生分聴いたと思う(笑)」。
「Strings Of Life」はデトロイトやシカゴなどでローカルヒットを記録。「Strings Of Life」の熱気は、アシッドハウスが頻繁にプレイされていたイギリスのレイヴ、そして第二のヒッピームーブメントと呼ばれる「セカンド・サマー・オブ・ラブ」に浮かれる若者たちへ飛び火、結果ヨーロッパ中で大ヒットを記録する。当時の様子をデリック・メイは「オレ自身(の音楽)はシカゴハウスの一部だと思っている。ホアンこそがデトロイトだった。エレクトロを作り、テクノを作った」と回想する。87年当時のダンスミュージックと比較すれば、「Strings Of Life」は実験的でありながらも、現在のダンスミュージックへ影響を与えた楽曲だということがよくわかる。しかし、デリックが回想する通り、「Strings Of Life」はディスコから強い影響を受け、シカゴで生まれたハウスミュージックだったのかもしれない。
サイボトロンのアルバム『Enter』を発表後、一人で活動を始めたホアン・アトキンスは自らのレーベル〈Metroplex〉を設立し、自らのモデル500名義の「No UFO’s」を発表する。名義や曲名からわかる通り、もう一から十まで、宇宙やSFに関する引用が鏤められている。そして、「No UFO’s」のエレクトロビートはファンキーで、センセサイザーで演奏されているもののベースラインはファンクからの影響が強い。ディスコやハウスミュージックなどに強く影響を受けたデリックに対し、ホアンはサン・ラやパーラメントやファンカデリックが提唱したアフロフューチャリズムに直接的な影響を受けている。アルバム『Deep Space』のジャケットを見る通り、ホアンはサン・ラやPファンクの宇宙思想的な部分も受け継いだともいえる。
「Strings Of Life」が世界的なヒットを記録したことから、デトロイトのミュージシャンたちは、ヨーロッパのレーベルから次々と作品を発表することになる。ホアン・アトキンスも例外なく、ベルギー〈R&S〉やドイツ〈Tresor〉からリリースが多くなるが、彼の姿勢や作風は変わることなく、アフロフューチャリズムを遺憾なく発揮する。デトロイトテクノ≒宇宙的というイメージはホアン・アトキンスの影響が強く、その決定打が『Deep Space』 (95年)だ。
シンセの音色が眩い「Milky Way」(天の川)。高速ながらファンキーなTB-303のベースラインが印象的な「Orbit」(軌道)。BPMはゆったり目なのに「Starlight」など。アルバムジャケットの銀河の星屑が示す通り、作品全体で宇宙的な壮大さ、そして未知やそれに伴う好奇心を伴った作品になっている。そして、デトロイトの宇宙的なイメージは、この後「Jupitaer Jazz」などを発表するアンダーグラウンド・レジスタンスへ受け継がれることになる。
Reference
▼ 宇宙名盤 vol.8
・『Wax Poetics Japan』No.07 (2009年11月29日発売)
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