みる2022.03.17

宇宙とアートブック。 vol.1 宇宙写真”前夜”の3冊。

text: Ryota Mukai

宇宙ほど謎に満ちたものもなかなかない。だけど、世界各地のアーティストたちが制作するアートブックだって、その奥深さでは負けてはいないだろう。そんなふたつが掛け合わさったら、面白いに違いない。ここでは「宇宙」をテーマにしたアートブックを紹介する。

写真集専門書店『ブックオブスキュラ』の店主・黒﨑由衣さんが選ぶ、写真集3冊。

いまだかつて、宇宙へ行って写真集を作った人はいません。そういう意味でこれまでの写真史は全て宇宙写真”前夜”とも言えますね。行かずしてどう撮るのか? そのアイデアも多種多様です。

 

例えば『LAND SPACE』の”SPACE”にあたる部分では、NASAのケネディ宇宙センターを撮影しています。その内部やロケットが飛び立つ瞬間も収録。もちろん、単に「こういう場所がありますよ」という説明のための写真ではありません。表紙だけみても、雲の白と空の青との間に、ロケットの先端の赤がよく映えていることがわかるはずです。しかもこの本、40cm×30cmとかなり大きいので迫力も抜群。宇宙に行ったことがないからこそのロマンのある1冊です。こんな風に感じられるのは、写真家の瀧本幹也さんならでは。広告やファッションの写真も手掛けられているから、モノの形や素材感を見極める目を持っている上に、それを美しく表現する力もある。タイトルの”LAND”にあたるページでは各国の景色を収録。地球も宇宙のなかのひとつの惑星なのだと改めて感じられます。

 

『LAND SPACE』 瀧本幹也

2013年に青幻舎から刊行。ケネディ宇宙センターを撮影した”SPACE”シリーズと、世界各地の自然を収めた”LAND”シリーズを合わせて収録。瀧本幹也は映画『海街diary』『三度目の殺人』など是枝裕和監督作の撮影も担当した。

 

『LAND SPACE』と同様に、NASAの施設をテーマにした作品に『Gravity』があります。こちらはアイスランドにあるNASAの宇宙基地。少し変わった作りになっています。というのも、本作に収められているのは必ずしも”撮影したもの”ではないのです。基地では日々大量のデータが生まれています。衛星写真や隕石が爆発した瞬間の映像、研究者たちが書いたテキストなどなど……。それらを再構成し、自身の写真も合わせた上で、宇宙探査のドキュメンタリーに仕上げているのです。作ったのはフランスを中心に活躍する、ミシェル・マッツォーニというアーティスト。普段は映像作品も作っています。この本も動画のような読み心地で、ページをめくるにつれ宇宙を観察しているような気分になります。

 

『Gravity』 ミシェル・マッツォーニ
2015年にARP2 Editionsから刊行。アイスランドにあるNASAの宇宙基地で撮影した写真と、現地で発見した資料を組み合わせた宇宙探査ドキュメンタリー。「写真と資料が目で見て区別できないからこそ、引き込まれるんです」

 

これまでの2冊は宇宙研究の場に行って作ったという点で似ています。その点、『夜明け』は変わっていて。まず、撮影場所は富士山。それも7合目の標高約3000m地点で、合計700日かけて撮られたものなんです。ここにある山小屋『大陽館』で住み込みで働いていた写真家の山内悠さんだから作れたもの。彼自身「富士山の上は宇宙だった」ということを言っているのですが、それは写真を見たらよくわかります。まるで大気圏にいるかのような漆黒の宇宙と惑星の間にいるような作品があります。こんな世界はスペースシャトルに乗らないと見えないと思っていたらまさか富士山にあったとは! とびっくりしましたね(笑)

 

『夜明け』山内悠
2012年に赤々舎から新装版が刊行。富士山の標高3000m地点から撮影した写真たち。天地を逆にして掲載した最後の数ページは、まるで宇宙から地球を見たような画になっている。こちらは山内悠の1作目。2作目も宇宙を感じられる『惑星』。