みる2022.03.22

METI ー異星文明へのメッセージ vol.2

宇宙編集部

未知の生命体に向けて、地球からメッセージを送る。

今日では当たり前のように“宇宙人”という呼称で親しまれる地球外生命体。しかし実際には未だ地球上の誰1人遭遇したこともない、そもそもいるのかどうかすらわからない未知の存在に向け、地球上からは数多くの交信が試みられてきました。本コラムでは、中でも「地球を見つけてもらう」ことを主な目的に発信されてきた「METI(Messaging to extraterrestrial intelligence)」にフォーカス。異星文明に向け、発信されてきたメッセージの形を辿っていきます。

アレシボ天文台の航空写真

 

 

第1回目で取り上げた「パイオニア探査機の金属板」に続き、第2回目では、1974年11月16日、世界でも初めての電波によるMETIとして太陽系外の天体に向けて発信された「アレシボ・メッセージ(Arecibo message)」を取り上げます。

 

メッセージの制作に携わったのは、前回の記事でもお馴染み、地球外的知的生命探査活動「オズマ計画」をはじめ、「パイオニア探査機の金属板」の制作にも携わった天文学者フランク・ドレイク。舞台となったのは、カリブ海北東、アメリカの自治的・未編入領域として知られるプエルトリコ。米国科学財団(NSF)との協力協定のもと、国立天文学電離層センターの一部として、SRIインターナショナル、宇宙研究大学連合、プエルトリコ・メトロポリタン大学により運営され、1963年に完成したプエルトリコのアレシボ電波望遠鏡の改装記念式典で「アレシボ・メッセージ」は送信されることになります。直径305 mの球面反射面がカルスト地形の窪地を利用し、3本のマストで高さ150 mに受信機が吊り下げられている固定式のアンテナからなるアレシボ天文台の望遠鏡は、その象徴的で巨大な形態から1995年のアクション映画『007 ゴールデンアイ』や、97年のSF映画『コンタクト』にも象徴的なモチーフとして登場することでも知られ、2020年8月、老朽化による劣化で崩壊するまでレーダーとしても活用され、地球へ衝突するかもしれない小惑星を追跡できる地球で唯一の天文台と言われていました。

 

 

 

Photo by Mariordo (Mario Roberto Durán Ortiz)

 

 

当時にして最大20テラワット(1テラワット=1兆ワット)の出力で信号を発信する送信機からメッセージを送った先は、地球から約2万5100光年の距離にあり、北天最大、美しさは全天一とも言われるヘルクレス座の球状星団「 M13」(※1)。送信されるまでには3分弱を要しました。

 

センチメートル、フィート、10進数などの「人間的」なシステムで話すことはできないという仮説に基づき、メッセージで基準にされたのが「23 × 73」という2つの素数の積「1,679」という数字。素因数分解し四角形に並べ替えようとすると「23 × 73」(23行 × 73列)または「73 × 23」(73行 × 23列) の2通りにしかできないことから、アレシボ・メッセージは1,679個のビットから形作られました。読み手が発信された信号を2次元の図面に並べ替えることができれば読める仕組みになっています。実際に本記事では、コードの1と0で描かれるパターンのうち、1を表す部分に着色すると、下記のような図が浮かび上がってくることが分かります。

 

 

 

CC表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=365105

 

 

記述内容-1:0-10を表す数字

1から10までの数字が2進数で表示され、8、9、10の数字は2列で表示されています。

 

記述内容-2:DNAの構成元素の原子番号/ヌクレオチド/二重螺旋構造

DNA(デオキシリボ核酸)を構成する元素、水素 (H)、炭素 (C)、窒素 (N)、酸素 (O)、リン (P) の原子番号にあたる「1, 6, 7, 8, 15 」が2進法で記され、続いてDNAの構成単位でもある「ヌクレオチド」の組成式、デオキシリボース(C5OH7)、アデニン(C5H4N5)、チミン(C5H5N2O2)、リン酸(PO4)、シトシン(C4H4N3O)、グアニン(C5H4N5O)が描かれます。そして2進法による化学式の下にあるのが、DNAが二重螺旋であることを伝えるもの。楕円は二重螺旋を表し、直線に見えるパートはヌクレオチドの数を表す42億9,444万1,822という数字を表しています。

 

記述内容-3:人間の身長/地球の人口

DNAの二重螺旋の下には、胴と2本の腕と2本の脚を持つ小さな棒人間のような人の姿が小さく描かれています。左側には、メッセージが制作された当時の地球の人口を表す2進数の値が表示され、1974年当時の世界の人口とほぼ同じ42億9000万人と計算することができます。人型の右側に記されるのは、人間の身長のバイナリコード。フィートやインチなどを使わず、身長は「波長単位」で表現されています。ここで重要になるのが、コードが送信された時の周波数2380MHzです。メッセージを波長に換算するために波長(メートル)を求めると300/2380 = 0.12605042m = 12.6cm。これが「波長単位」になり人間の身長を表すコードが2進数で1110=10進数で14であり、14に波長単位(12.6)を掛けると176.4cm。人間の平均身長として記されていることがわかります。

 

記述内容-4:太陽系と地球

人間の下には太陽系が描かれており、太陽と各惑星を表している(送信当時、「第9惑星」であった冥王星も含まれている)。地球は太陽から3番目の惑星として他の惑星よりも1行上に描かれ、このメッセージの発信源であることが示されている。またこの図形では各惑星と太陽がその位置とともにおおよその大きさに従って区別して描かれています。

 

記述内容-5:メッセージの発信源、アレシボ望遠鏡

最後に記されるのは、メッセージの発信源であるアレシボ電波望遠鏡を曲線で表現したものです。メッセージの最後の2行には100101111110(中央の2行に分割)が記され、10進数では2430に相当し、前述の「波長単位」を使うと、2430*12.6cm=30618cm、つまりアレシボ電波望遠鏡のアンテナの口径のサイズを表していることがわかります。

 

 

 

Credit: Adam Block – http://www.caelumobservatory.com/gallery/m13.shtml, CC BY-SA 3.0 us, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=58367016による

 

 

たったの1679ビットからなるメッセージは、ぱっと見ではゲーム画面でよく見かける何の変哲もない図形に見えます。しかし電波という実態を持たない情報だからこそ、時間と共に劣化することのない記録性の高い情報であるとも言えます。アレシボ・メッセージがM13でメッセージが受信され、仮に返信があった場合でも、地球に戻ってくるまでには約5万年かかるといわれていますが、地球の時間軸で5万年遡ってネアンデルタール人が存在した旧石器時代を想像してみると、その果てしない時間を経て送られてきたとしたら、受信するメッセージ自体が、遥か昔の異星文明の記録になるのかもしれません。「メッセージを送る」という行為を読み解いていくためには、どのような情報を「記録する」かということについても考えていく必要がありそうです。

 

第3回目では電気信号と、並行して改良が進められていた金属板のメッセージ「ボイジャー探査機のレコード盤」(1977)について紹介していきます。ここでポイントになるのが、メッセージをどのように伝えるかではなく、メッセージで何を伝えるか、その内容とコミュニケーションのアップデート。数多のSF映画で宇宙が舞台となり、地球外生命体との関わりが頻繁に議論されるようになった70年代後半、「異星文明にメッセージを送る」試みは果たしてどのように発展していくのか、次回もお楽しみに。

 

<Reference>

参考書籍

キース・クーパー著『彼らはどこにいるのか: 地球外知的生命をめぐる最新科学』(河出書房新社、2021年)

日下部展彦 (著), 田村元秀 (監修)『新説 宇宙生命学』(カンゼン、2021年)

参考

The Arecibo Observatory 天文台公式サイト

The Chilbolton ‘Arecibo message’ Formation