特別連載2021.11.19
photo & text Yozo Hirano
出発まであと63日。
ロシア時間の10月5日11時55分、昨日の試験の裏で(全くもって裏ではないのだけど)、ロシア民間人2名を乗せたソユーズがバイコヌールから打上げられた。
女優のユリアさんと映画監督のシペンコさん。世界で初めて実際のISSで映画撮影するという、ロシアの国をあげての一大プロジェクト。トムクルーズが宇宙でハリウッド映画を撮るということが大きなニュースになったけど、実はロシアが先手を打っていた。
彼らとはメディカルチェックのタイミングも一緒で、訓練中もよくすれ違い際に話したりしていたので、実際にソユーズに乗り込んだ2人を見て、なんとも不思議な気持ちになった。自分もあそこに座る日がもうすぐやってくるのだと、改めて実感して変な気分になった。
打上げは1分たりとも遅れることなく、定刻通りにリフトオフした。一緒に見ていたインストラクターいわく、少なくともこの十数年、延期どころか1分たりとも遅延したことは見たことがないという。恐るべしソユーズ、恐るべしロシア。
でも、絶対に失敗しないとは分かっていても、打上げのタイミングだけは祈るような気持ちで画面を見つめる。今となってはソユーズの中でどのような操作が行われているかも知っているので、余計に緊張感が増した。
打上げは大成功。安定軌道に入り、中継はドッキングするまでの間、一旦終了した。ちなみに彼らのフライトは地球を2周してISSにドッキングする最短フライト。我々のフライトでは4周してからISSにドッキングする。時速約28,000kmで動くISSに、たった2周のオービタルフライトでドッキングさせてしまうロシアの技術には感服する。
ドッキング後のハッチオープン。コマンダーのアントン飛行士に続いて、真っ赤なフライトスーツを着たユリアさん、ミントカラーのシペンコさんが笑顔で登場した。浮遊を楽しんでいる様子で、宇宙酔いもしていないように見えた。さっきまで地上にいた人たちが、半日後には宇宙ステーションでぷかぷかと浮いている。改めてなんてすごいことなんだろう。
無事のフライトを喜んでいると、インストラクターから情報が入った。ドッキングの際、何かしらの不具合があり、マニュアルドッキングになったそうだ。
“Off-nominal situation”
ー正常でない状況。
マニュアルドッキングと聞いてドキッとした。普通ソユーズは全自動でオートマティックドッキングされる。マニュアルドッキングは、コマンダーがジョイスティックを精緻にコントロールして手動でドッキングさせる。訓練時でも緊急事態対応としてトレーニングされ、まさか現実には起こらないだろうという認識だった。ソユーズ船内やMCCは緊張に包まれたに違いない。それでも本番でマニュアルドッキングを一発で成功させてしまう宇宙飛行士の技術と度胸はさすがだとしか言いようがない。
とにかく無事に渡航できてよかった。滞在は僕たちと同じ12日間。どんな映画のワンシーンが撮られるのか、今からとても楽しみだ。
1985年、愛媛県生まれ。2007年にZOZOTOWNを運営する株式会社「スタートトゥデイ」に入社、フルフィルメント部門の責任者として従事。現在は前澤友作氏のマネージャーと、「スペーストゥデイ」のプロデューサーを務める。