特別連載2021.12.02
photo & text Yozo Hirano
出発まであと19日。
ロシア出発の日。今日から滞在場所をロケット打ち上げ基地のあるバイコヌールに移して隔離生活が始まる。パッキングをギリギリまでしてなかったせいで、睡眠時間はたったの3時間。5時起きでホテルを出発した。
ホテルのロビーに降りると、朝の5時台にも関わらず、たくさんのホテルスタッフが僕たちの出発を待ってくれていて、エントランスまでアーチを作って送り出してくれた。最後まで温かい彼らの心遣いに感動して朝から泣きそうになった。2ヶ月間滞在させていただいたホテルと彼らとは、これでしばらくお別れになる。
とてもお世話になりました。またいつか帰ってきたいと思います。
空港の前にGCTCに立ち寄り、朝食会と題される出発セレモニーを行った。スケジュールに「Breakfast」としか書いていなかったので、みんなでモーニングを食べるだけかと思っていたら、GCTCの所長やお偉い方々、宇宙飛行士の方々がスーツで送り出してくれる伝統的な儀式だった。それぞれがスピーチをし、そのたびに「ウラ、ウラ、ウラー!」と乾杯をする。日本で言う「バンザイ!」のような掛け声らしい。テーブルにはたくさんの料理が並べられていたけど、誰も食事には手をつけることはなく、スピーチと乾杯を繰り返して朝食会は終了した。
空港に向かうためのバスの前にはたくさんの見送りの関係者といくつかのメディアが薄暗い中待ってくれていて、ともすれば今まさにロケットに乗り込むのかと思うほど大事になっていた。モニュメントの前で記念撮影をし、簡単なインタビューに答えてから、たくさんの人に手を振られながらバスに乗り込んだ。
バイコヌールでは、ロケット打ち上げまでほぼ隔離状態になるため、これまでロシアに一緒に滞在し、訓練をサポートしてくれたチームのみんなとも、ここで一旦お別れになる。バタバタと慌ただしい流れの中で一人ひとりと満足に話すこともできないままバスに乗り込み、バスの中から手を振るみんなの顔を見てちょっと泣きそうになった。次にみんなと会えるのは、打ち上げ当日ということになる。しかも分厚いガラス一枚隔てて。
スターシティ近くの軍用空港から、専用ジェットでバイコヌールまで3時間強のフライト。まず驚いたのが、そこからプライムクルーとバックアップクルーで分けられ、それぞれ別々のジェットに搭乗した。もし万が一のことがあった場合を想定して、ということかと思ったら、理由は分からないけど昔からずっとそういう伝統らしい。
次に驚いたのが、僕たちのために機内に個室が用意されていた。想像していたよりも格段に良い待遇に戸惑った。機体が離陸してしばらくすると、前澤と僕はまた別の個室に移動し、サシャや幹部たちと改めて朝食を囲んだ。
バイコヌールの空港に到着すると、そこにはロシア国旗の小さなフラッグを手に持った数十名の人々が大歓声で我々の到着を歓迎してくれた。さすがにこれは仕込みじゃないかと疑うほど強烈なお出迎えだった。お出迎えの皆さんに手を振り、バスに乗り込む。自分が何者になったのか笑いたくなった。
ちなみに空港からホテルまでの移動のバスも、プライムとバックアップで別々に分けられた。これもそういう伝統らしい。バイコヌール以降、バックアップクルーはその名の通り完全なバックアップ、いわゆるサポート役に徹するのだという。
バスの車窓からは、モスクワやスターシティの街並みからは想像もつかない、真っ平らで何もない荒野が広がっていた。砂漠と草原の中間くらいの感じだろうか。人に会う前に野生の馬を発見した。
空港から程なくしてホテルに到着。その名も「コスモノートホテル」。周囲にはほとんど何もなく、そもそもホテルの敷地から出ることが許されていない。ここで打上げまでの約20日間、隔離生活が始まる。
<次の記事>vol.62 11月20日:ロケットとの初対面。
1985年、愛媛県生まれ。2007年にZOZOTOWNを運営する株式会社「スタートトゥデイ」に入社、フルフィルメント部門の責任者として従事。現在は前澤友作氏のマネージャーと、「スペーストゥデイ」のプロデューサーを務める。