特別連載2021.11.16
photo & text Yozo Hirano
出発まであと71日。
待ちに待ったZERO-Gフライトの日がやってきた。朝からどんよりとした雲が厚く覆っていたけど、延期の連絡はきていない。決行だ。
訓練所の近くでバスに乗り換えると、屈強なロシア人男性たちがすでに乗り込んでいた。思っていたよりもスタッフやカメラマンの人数も多い。バスは10分も走らないうちにロスコスモス管轄の軍用空港に到着した。空軍の軍人だと思われる人たちが大勢いた。
到着すると特段の説明もないまま、ゼログラビティ用のジャンボジェットに乗り込んだ。中はコックピットと何かしら特別な装置が前方にあるのを除けば、客席部分の座席がすべてくり抜かれた空洞になっていた。気分が悪くなる人もたまにいるそうで、初めに酔い止めを飲んだ。
機内では、一人につき一人ずつインストラクターがサポートする。フライトスーツの上からハーネスを取り付け、その上からパラシュートバッグを前方で抱えるようにして担ぐ。機内の両端に向かい合うように座ってテイクオフ。離陸してしばらくして、パラシュートバッグを降ろした。
今か今かと待っていると、その時は急に訪れた。突如頭から足に掛けて強力なGが掛かり、突然のことに床に膝をついた。床に体が張り付けられるような感覚。飛行機が急上昇している。Gは体の全面で受けるよりも、垂直に上から下に受ける方が何倍も体に負担がかかる。
Gにしばらく耐えていると、機内のライトがパッと明るくなり、その瞬間にGが抜け、全身がふわっと宙に浮いた。「なにこれ、なにこれ?!」と歓喜しながら不思議な感覚を味わったのも束の間、次の瞬間、全身が一気に上空に持っていかれた。お尻と足が先に浮かんでしまい、そのまま天井に向かって真っ逆さまになった。完全に空中に浮いてしまうと、どう体勢を立て直そうとしても無駄だった。思っていた以上に体の自由が利かない。ジタバタしたまま25秒が経過し、静かに床にお尻をついた。完全な初体験に、皆顔を見合わせて大笑いした。思っていた以上の感動があった。
その後も機体は昇降を繰り返し、何度もGと無重力を繰り返した。機内の両端を行ったり来たりしてみたり、体をくるくる回されてみたり、水を浮かべてみたり、スーパーマンみたいに飛んでみたり。
2回目のフライトでは、宇宙服の脱着練習も行った。想像通り、やはり無重力下で伸縮のしない宇宙服を一人で脱ぎ着するのは難しかった。けれど、楽しくて少年のようにはしゃいでしまった。そうして、計20回のパラボリックフライトは、あっという間に終了した。
ホテルに戻ってからも、Gと無重力の感覚がまだどちらも残っていて、その感覚が交互に襲ってきて、その日はベッドに入るまでずっとふわふわしていた。宇宙酔いってこんな感じなんだろうか。
<次の記事>vol.18 9月29日:モスクワ市内の動物園へ。
1985年、愛媛県生まれ。2007年にZOZOTOWNを運営する株式会社「スタートトゥデイ」に入社、フルフィルメント部門の責任者として従事。現在は前澤友作氏のマネージャーと、「スペーストゥデイ」のプロデューサーを務める。