みる2022.01.25

METI ー異星文明へのメッセージ vol.1

宇宙編集部

未知の生命体に向けて、地球からメッセージを送る。

今日では当たり前のように“宇宙人”という呼称で親しまれる地球外生命体。しかし実際には未だ地球上の誰1人遭遇したこともない、そもそもいるのかどうかすらわからない未知の存在に向け、地球上からは数多くの交信が試みられてきました。本コラムでは、中でも「地球を見つけてもらう」ことを主な目的に発信されてきた「METI(Messaging to extraterrestrial intelligence)」にフォーカス。異星文明に向け、発信されてきたメッセージの形を辿っていきます。

 

 

歴史を辿ると「地球外の生命体」について仮説は古くから存在していたものの、異星文明に向けコミュニケーションが試みられるようになった1つのきっかけは、1959年、科学雑誌『Nature』で発表しされた論文に遡ります。イタリアの物理学者ジュゼッペ・コッコーニとアメリカの物理学者フィリップ・モリソンによる「地球外に文明社会が存在すれば、我々は既にその文明と通信するだけの技術的能力を持っている」という見解は世界でも話題を呼び、1960年にはアメリカの天文学者フランク・ドレイクによる提案から、世界で初めて電波を使用した地球外的知的生命探査活動「オズマ計画」が実施。計画では電波望遠鏡から1,420MHzの電波(宇宙でもっとも多く存在する水素の出す電波)で地球に向けて呼びかけの信号が送られていないかを30日間にわたり観測されました。(ちなみにオズマ計画は『オズの魔法使い』の登場人物オズマ姫に由来しています)結果、文明の痕跡とされる信号は見つけられませんでしたが、「オズマ計画」のように宇宙から地球への電波を探査する受動的な「SETI(Search for Extra Terrestrial Intelligence)」に対し、異星文明に向けて自らアクションを起こすようになったのが、「アクティブSETI」、またの名を「METI(Messaging to extraterrestrial intelligence)」と名付けられる活動。連載第1回目では、世界でも初めてのMETIとして発信された、「パイオニア探査機の金属板」を取り上げます。

 

 

パイオニア探査機の金属板(1972,1973)

 

「パイオニア探査機の金属板」は、1950年代に月探査から始まり70年代の木星探査まで続いたNASAの惑星探査計画「パイオニア計画」の集大成とも言える木星探査機パイオニア10号、11号に取り付けれていた金色光沢陽極酸化処理アルミニウム合金製の銘板。サイズはW229mm×H152mm×D1.27mmと比較的コンパクトで、何億光年も先の未来で、異星文明に発見された際、発射時刻と地球の場所を伝えることをミッションに、探査機による初のMETIとして制作されました。

制作及びデザインを担ったのはNASAにおける惑星探査の指導者でもあり、元コーネル大学教授、天文学者・SF作家として知られるカール・セーガンと、地球外文明の数を推定する『ドレイクの法的式』を提唱したことでも有名な天文学・天体物理学者のフランク・ドレイク。図版の制作は当時のセーガンの妻リンダ・サルツマン・セーガンが手がけています。

 

 

並列に並ぶ2つの円

 

金属板上で、一見単純な形でありながら謎めいているのが、金属板の左上に位置する2つの円。実はこの円は、この金属板を読み解くためのキーになっています。図版の制作にあたり、異星文明に解読してもらう「言語」としてセーガンとドレイクが選んだのは、宇宙に最も多く存在するとされる水素原子。この2つの円はその超微細遷移の概念図だそう。水素原子の軌道電子のスピンが平行から反平行に変わることで放出される電磁波の波長 (21cm) と振動数 (1420MHz) を表しており、それぞれ長さと時間の単位として用いることができるとされています。(しかしながら金属板が発表された後、このキーを読み解けた人はわずか。難解すぎると批判も寄せられました)

 

人間の男女と探査機の外形

 

最も具体的な図版として描かれているのが、男女と思しき2人の人間の姿。背後に引かれている2本の水平線の間には二進法の8が記されています。水素の21cm線の波長を単位とすると、この女性の身長が8× 21cm =168cm であることがわかります。男性は片手を挙げていますが、これは当時「友好の証」として選ばれたポーズ。同時に人が手足を動かせることも表しています。2人の背後にあるのはパイオニア探査機の外形。探査機の実物のサイズを元に、地球人の大きさや体格を推定できるようにと描かれました。(この人の図版についても、裸体であることや性の表現、また友好の証等にも認識に偏りがあるとして多くの議論の元に)

 

 

15本の放射線

 

図版上、一際目を引く15本の放射線は、三角測量の原理を用いて探査機が打ち上げられた時代を計算するための指標として描かれたもの。15本のうち、14本は二進法の数字が書かれ、21cmの振動数を単位としたパルサー(パルス状の可視光線、電波、X線を発生する天体の総称)の周期を表しています。また、それぞれの直線は太陽から各パルサーまでの相対距離を示し、目盛は銀河面に直交するZ軸の距離を表しています。

 

 

太陽系と地球

 

金属版の左下に描かれているのは太陽系の模式図。各惑星の上下に引かれている線は、水星の軌道半径の 1/10を単位とした相対的な値が2進法で書かれ太陽からの距離を示しているものです。探査機が地球から発信され、木星を経て太陽系を出るという経路を示そうとした矢印が描かれています。

コンパクトにして世界で初めて宇宙に向けて発信されたMETIに載せられたこれらのメッセージは、後にこの金属板をデザインしたカール・セーガンによって、1977年に打ち上げられるNASAのボイジャーのゴールデンレコードに至るまでデザインの改訂を繰り返し、検証が続けられていくことになります。

2022年現在において、50年以上前、研究の末にデザインされたこの小さな金属版を見てみると、そもそも「異星文明」という得体の知れない存在に向けて、そもそもメッセージを送るべきなのか否かという議論から、何をどのように送る(伝える)のが正しいのだろうか?という問いまでまだまだ答えのない問いが数多く残っていることが分かります。そして地球上にも未だに解読されていない古代文明の文字と同様に、見つけられたとしても、判読されるまでに数百年という時間を要してしまうのかもしれません。

第2回目では一度「金属板」という形あるメッセージから離れ、太陽系外の天体をターゲットに行なわれた電波による初のMETI、「アレシボ・メッセージ」(1974)について紹介していきます。「異星文明にメッセージを送る」地球での試みの先に何があるのか、もうしばし、お付き合いを。

 

<Reference>

 

参考書籍

カールセーガン著『COSMOS(上・下)』(朝日新聞出版、2013年)

鳴沢 真也 著『宇宙人の探し方 地球外知的生命探査の科学とロマン』 (幻冬舎新書、2013年) 

 

参考文献

NASA|45 Years Ago, Pioneer 11 Explores Jupiter

NASA | NASA Ames History Archives

A Message from Earth | Carl Sagan, Linda Salzman Sagan and Frank Drake